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鶴見流星 兄ちゃん達 3
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はじめ兄ちゃんは洗い場で髭を剃りだした。几帳面だから時間をかけて髭を剃る。
俺たちは湯船にざっぱーって入る。
「温まろうぜ」
熱くて肌がピリピリする。ここの銭湯のお湯マジであちーな。俺らが一番先の客だから炊き立てなのか?
バシャバシャしたりふざけて朝日にお湯かけたり。銭湯マジでサイコー。
「もー、熱いよー」って朝日がやめろと言う。
確かに、お湯まじで熱くね?
「先にあがったほうが負けな」
「おう」朝日は、にこって笑う。
「いち、にい、さん、しー」黙ってお湯につかって百まで数える。
九十五まで数えたときに兄ちゃんが風呂にやってきた。
「朝日のぼせて端っこで死んでるぞ」って言われたので横を見る。
朝日はぐったりして頭を風呂の縁にのせて仰向けで目つぶって、うーんってうなってる。
俺は、パニッくってお湯から出た。
「兄ちゃん!」
「しょうがねえな」
兄ちゃんが朝日を湯船から抱え上げた。
「脱衣所に運んでやるから」
それお姫様だっこってやつ。
中学生男子軽々と抱え上げて脱衣所に向かう兄ちゃんの後ろ姿を目で追う。
余裕で去っていくその様、かっこいいなぁ。兄ちゃんの後に続いて脱衣所についていく。
朝日は脱衣所の丸椅子に座って「はー、のぼせちゃった」って。
兄ちゃんは風呂に戻ってしまったけど、俺は急いでパンツ履いて自動販売機でジュースを買う。
湯あたりしてくらくらしている朝日にフルーツジュースを渡した。
「ありがとう」
冷たいフルーツジュースを飲むと、朝日は少しずつ元に戻った。
「ごめんな。バカなこと競争して」俺は謝る。
「いいって」
俺がバカやったときいつも朝日が気遣って言うセリフ。
おでこに張り付いた髪をそっと横に分けてあげた。
朝日、全裸じゃん。パンツぐらいはけよ。身体、俺と全然違うじゃん。まだガキじゃん。
俺、一年だぶったし四月生まれだからもう一五歳なの、朝日は早生まれだからまだ一三歳。
華奢で手足長くて、肌とかすべすべしてすごくきれいだな。
「鶴見っちもジュース飲む?」フルーツジュースの瓶を俺に差し出した。
いらないよ。
だって間接キスになっちゃうじゃん。この状況で間接でもキスはやばいって。
俺、ドキドキしてるよ。こいつ男だよ。やべー。
***
マンションに戻ったら次郎兄ちゃんと隼人兄ちゃんがあぐらかいて麻雀やってんの。
二人で麻雀やってもつまんないだろ。
「流星、おまえもつきあえ」兄ちゃん達に言われる。
はじめ兄ちゃんはスマホで誰かと話してるから参加しなかった。
朝日も加えて4人で麻雀大会。がちゃがしゃがちゃって麻雀パイをみんなで混ぜてパイを配って積む。
「麻雀やったことない」朝日がボソッと言った。
「俺が教えてやるよ」はじめ兄ちゃんが朝日の後ろに座って、あぐらかいた上に朝日を抱っこ。
小学生のときに兄ちゃんに抱っこしてもらって麻雀習ったけどさ……俺のダチ、だっこするなよ。
鶴見兄弟麻雀大会は次郎兄ちゃんのぶっちぎり勝ちだった。
ご満悦の次郎兄ちゃんが近くのケーキ屋でケーキ買ってきてくれた。
次郎兄ちゃんは甘い物とか美味しい物が大好物の巨漢。
「好きなケーキ食いな」朝日に先にケーキ選ばせている。
「ギャップ萌え~」なんて俺、ふざけて言ったら。
「気持ち悪いこと言ってんじゃねーよ」すげぇ怖い目で睨まれた。
195センチのがたいのいい大男に上から睨まれるって超迫力ある。
思わず「ごめんなさい」って小さくなっちゃったよ。
イケメンの隼人兄ちゃんが「帰りはバイクで家に送ってやるからなー」って。
初対面でうちの兄ちゃん達に朝日、ものすっごく気に入られてんですけど。
「これやるから。大切にしてくれよ」帰り際にはじめ兄ちゃんがシルバーのヘルメットを朝日に渡す。
俺がめちゃくちゃ欲しい「伝説の総長」のメットじゃんか。
「なんだよ。兄ちゃん、俺にじゃなくて、なんで朝日にやるの?」抗議した。
「そんなに大切なものなの?」朝日が聞く。
「俺が総長していたときに被ってたやつ」朝日にメットかぶして紐をきゅっとしてあげながら兄ちゃんは言った。
隼人兄ちゃんがバイクで朝日を送っていった。
大切なメットなのになんで初対面の朝日にあげるんだよ。
もしかしてはじめ兄ちゃん、朝日に惚れたとか。少年院も刑務所も入ったことあるし、もしかして男色覚えてきたとか。
やだな。俺、不安になってきた。
「兄ちゃん、やけに俺のダチになれなれしーな」
「朝日、可愛いじゃん」
兄ちゃんから”可愛い”って言葉が出るほど、可愛いけどさ。
あんた、キモイよ。
「おれのダチなんだからケツ掘るなよ!!」腕に軽くパンチしてやった。
ばっちーんと尻に平手打ちが返ってきた。
いでーっ。手加減して叩いてくれよ。
「そっちの趣味はねーよ。昔の知り合いに似てんだよ」はじめ兄ちゃんは寂しそうに笑った。
『昔の知り合い』のことを聞いてみた。
東京足立区を仕切っていた門司虎次郎(もじこじろう)って総長さん。目も根性も座っていて最高にヤバかっこ良くて、関東の不良で門司虎(もじとら)を知らない奴はいなかったそうだ。
最強の漢で、木刀もたせたら門司虎に勝てるやつはいなかったって。10人ぐらい余裕で病院送りにできたそうだ。
高校生だったから、朝日よりは背が高かったけど顔とか雰囲気がすごく似てるって。
「門司虎さんって今、どうしてるの?」会ってみたいな。
「18で死んじゃったよ」
「死んじゃったの?」
内部抗争で裏切り者に銃で撃たれて死んだって。
1月の雪が降る、東京湾岸の公園で。
その時、兄ちゃんも車で駆けつけて最期を看取ったって。
最期の言葉が「はじめ、来てくれたんだな。待ってた」
門司虎総長とはじめ兄ちゃんは対立していたけど、どこか心は繋がっていてマブダチみたいな関係だった。
「虎次郎(こじろう)が生きていたら、一緒に銭湯行ったりメシ食ったり麻雀したいと何度も思ったよ」
はじめ兄ちゃんは目を細めて言った。兄ちゃんらしくないちょっと悲しそうなそれでいて、やさしい声だった。
門司虎総長の話をもっと聞きたかったけど、兄ちゃんは朝日のことを話しだした。
「朝日が俺の背中流してくれて虎次郎と背中の流しあいっこしてるみたいで楽しかったよ。あいつが生きてるうちに楽しい思い出作りたかった」
「その人の伝説もっと聞かせてくれよ」
「また朝日、家に連れてきてくれたらな」
朝日、朝日ってなんだよ。朝日は門司虎とは違うよ。俺のダチ。
まったく、兄ちゃんも真琴も朝日にべたぼれじゃんか。
朝日は俺の『あさひ』なんだから、そこんとこ、よろしくな。
(鶴見流星 15才)
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