アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
貴方と僕の最期のお話。
-
『まふ、俺ね、ちょっと疲れちゃった。』
いつも落ち着いてるそらるさんが珍しく電話をよこしたのは明け方。
それに、焦ってる?ような不安な声。
これは只事ではない。と、僕は感じとった。
『大事な話するから来て欲しい。』
「はい、今すぐ行きます。」
僕は部屋着のまま家を飛び出した。
鍵も何もかも持ってないけど。
「そらるさん!」
鍵あいてない...
合鍵も持ってきてないや...
インターホンを押して待つ。
勢いよくドアが開いて出てきたそらるさんはすごくボロボロで。
「まふまふ...」
「大丈夫ですか...?」
大丈夫なわけがない。
だって僕にこんな姿をみせるんだから。
気がつくと、そらるさんは
僕の胸に顔を押し付けて泣いていた。
初めてこんな姿を見た。
声をしゃくりあげて、ドアも閉めてないのに。
動揺したけど、僕は
「そらるさん、どうしたんですか。僕に話してください。」
そらるさんが安心できるように優しく抱きしめて、頭を撫でた。
「あのね...」
そらるさんは話し始めた。
自分のリスナーさんのマナーが悪いこと。
仕事でミスを出し、周りを困らせてしまったこと。
周りの目が怖くなってしまったこと。
「俺マジで何やってるんだろう...」
「そらるさん...」
すごく落ち込んでる...そらるさんは気にし過ぎなんだよ...
「だからさ、俺、歌い手辞めたい...」
え...?
「な、なに言ってるんですか...」
「何もかもが嫌になった。もう知らない人に悪口言われたくない...」
そらるさんが歌い手を辞める?
そんな...そらるさんがいなくなったら僕は...
「嫌です!そらるさんが辞めるなら僕も辞めます!!!」
「まふまふ、お前は辞めるな。俺の分まで歌って。」
そらるさんは無理やり作ったような笑顔で僕の名を呼ぶ。
「そんなの、僕は願ってない!!!」
僕は...
「まふまふ...な、お願いだから。」
偽物の笑顔で大好きなあなたが呼んでくれた名前を呼んで欲しくない
「僕は、あなたがいたから歌い手を続けてた。あなたが僕の目標だった。
憧れてるから、大好きだから!
僕はあなたと同じ舞台で歌っていたい!!!」
「っ...まふっ、まふ...でも俺っ、は...」
「お願いします...誰があなたを悪く言っても僕にはそらるさんが必要なんです...」
「俺と、また一緒に歌ってくれる...?」
椅子の上でも、夢の中でも、帰り道でもいい。
二人で一緒に歌いましょう?
「はいっ!もちろんです!!!」
そういったはずなのに
なぜそらるさんは
真っ赤に染ったお風呂に手だけ入れて動かないんですか
なぜですか
ねえ
また歌い手するって言ったでしょ
そらるさん
嫌だ
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
そらるさんの胸に耳をつけて心音を聞く
聞こえない
そらるさんの顔を見た
目が少しだけ開いていた
彼の真っ黒な目には光がなかった
何より、頬が氷のように冷たい
なんで
死んじゃったの?
「そらるさん...?」
彼の名前を呼んだ
返事がない
僕の大好きなそらるさんの声はもう聞けない
どんな時も僕を救ってくれたあの声は聞けない
一緒に歌うことすらできない
嫌だ
僕の名前をまだ呼んでいて欲しかった
「約束、したっ、の、に、、」
涙が溢れて止まらなくなって
喉も潰れるぐらい喚いて叫んで
警察が来て僕を捕まえた
そらるさんは自殺した
無我夢中で僕は暴れた
守れなかったのが悔しくて、アンチに殺意が湧いて
違う
悪いのは僕だ
僕がそらるさんに連絡しなかったから
そらるさんは手首を切ってしまった
僕がそらるさんを見放した
僕がそらるさんを殺したんだ
全部僕が悪い
どうしようもない感情だった
夏にライブを控えた時期だった
数日後、そらるインフォさんに言われた
「そらるが死んだことは俺からリスナーさんに言っておきます。After the Rainをどうするかはあなたが決めてください。」
僕は、何もする気が起きなくて。
死のうと思っても怖くて足がすくんで。
そらるさんが死んだショックで耳がほとんど聞こえなくなって。
声帯が完全に壊れて声が掠れて。
音楽に拒絶反応を起こして。
ギターもドラムもピアノも弾けなくなった。
歌い手をやめた。
みんなに惜しまれつつの引退だった。
でも涙は出なかった。
引退してもしなくても
そらるさんはこの世にいないから。
そして風俗で働いた。
別に男が好きって言うわけじゃない。
出来損ないの僕を、
「可愛いよ」って
「愛してる」って
褒めてくれる。
そらるさんの面影を重ねて、
それを生きがいにした。
やっぱり僕はそらるさんが好きだったんだなあ。
そらるさんの一回忌がすぎてちょっとたった頃。
なんとなくそらるさんの服やパソコンを見ていた。
そらるさんのご遺族に頼み込んで遺品を貰った。
そらるさんがいつも来ていた服。
懐かしい匂いがした。
ラベンダーのような匂いが微かに香る。
世界で1番愛おしい匂い。
ふとその服の胸ポケットに違和感を感じた。
胸ポケットになにか入っている。
2枚の紙。
そらるさん独特な丸字で「まふまふ、ごめんね」と書いている。
もう1枚は、
変えられて開かなかったパソコンのパスワードだった。
開くとそらるさんがAtRの曲を作っていて、そらるさんのパートは録音済だった。
そらるさんが作った最後の歌。
なぜか曲名はなかった。
歌詞はそらるさんが好きな物語調だ。
音楽をヘッドホンで聞いた。
やっぱりあまり聞こえない。
激しい吐き気もする。
けど、歌ってみたくなった。
現役の時と同じような感情だった。
「そらるさん、いろちゃん、僕、頑張ってみるね。」
2年ぶりに防音室に足を踏み入れ、
震える声で一生懸命歌った。
昔よりは声は汚いかもしれない。
下手かもしれない。
でも昔以上に頑張った。
そらるさんパートと僕のパートを繋げてみる。
久しぶりに聞く愛おしい声。
胸が締め付けられてたまらなかった。
苦しい。
でも悪い意味じゃない。
そして投稿をした。
やっぱり僕はあなたが好きです。
偽物のそらるさんはもう要らない。
会ったら抱きしめて、
「大好きです」と言わせてください。
もう何にも怯えなくていいんです。
今度こそあなたを愛させてください。
「今、行きますね。そらるさん。」
『______________』
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
After the Rain
最愛の愛方との
最期の曲をここに。
『二人で虹を見よう』
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「本日未明、武道館を満員にした伝説の歌い手ユニット「After the Rain」のボーカル、
まふまふさんが自宅で亡くなっており、
死亡推定時刻とほぼ同時刻に
「After the Rain」の新曲が_____」
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
1 / 3