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忘却の懇願
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「っも、そこばっか……やめろって……っ」
さっきから執拗に乳首ばかり舐られ、思わず抗議の声を上げる。
「言う割には感じているだろう」
「うぁッ……」
尖った舌先で突かれると堪らず腰が浮いた。
タクシーで久古の家に連れてこられ、有無を言わさずベッドに押し倒されたのが二十分ほど前だ。それからずっと、焦らすように胸の尖りを愛撫され続けている。腫れ上がった乳暈(にゅううん)を指の腹で押され、疼くような熱が腰の辺りに溜まっていく。下着の中で勃ち上がった自身がドクドクと淫猥に脈を打っていた。
乳首をこね回していた久古の指先が肌を滑り、もうくすぐったいのか気持ちいいのか区別すらつかない。
ベルトの金具を外され、ファスナーを引き下ろされた。
「え……な、にすっ……うあっ」
慌てた自分に構わず、下着の上から勃ち上がったペニスをゆっくりと扱かれた。
「んッ……あ」
掠れた吐息が自分のものとは思えないほど溶けて聞こえる。下着をずり下ろされ、剝き出しになった情欲に羞恥が込み上げた。冷えた指がそれを絡め取る。
「んんっ……!」
巧みな指使いで裏筋を責められ、亀頭を親指で刺激されると、息が止まるほどの快感が押し寄せた。爽太は堪らず腕で顔を覆い隠す。
「も……む、りっ」
「イきたいのか?」
奥歯を食いしばって声を洩らすと、自分の胸の上で久古が笑った。なぜこんなに上機嫌なのか、この男は謎過ぎる。
「――ならイかせてやる」
乳首を刺激し続けていた舌が徐々に下の方へ落ちて行ったかと思うと、あろうことか弾ける寸前の欲情に口づけられた。
「んぁッ……それ、やめっ」
躊躇いなく熱い口内で舐られ、頭の中が真っ白になる。
「っあ、ああッ!」
軽く吸い上げられただけであっけなく達してしまった。自分が吐き出した欲を口で受け止めた久古は、脱力した隙をついて下着ごとズボンを引き抜いてくる。無防備に下半身を晒され、爽太はぎくりと顔を強張らせた。
「え、あッ……な、に……っ」
膝裏を抱えられ、あらぬ場所へと口づけられた。
「そん、なとこ、汚……ッあ……」
窄まりに舌を這わされ、何がなんだか分からないまま首を振る。トロリとした生暖かい体液が久古の舌を伝って秘孔に塗り込まれていく。
「こ、れ以上……何する気、なんだよ……っ?」
上擦った声でかろうじて問う。この前は一度出したら終わりだったのに。
久古は精液を全て自分の秘孔に吐き出して顔を上げた。
「セックスに決まっているだろう」
「せ、……は?」
さも当然と言わんばかりに返されたその単語に耳を疑う。
(セックスって……)
「う、嘘、だろっ」
顔から火が出そうなほど体温が上がった。
「お、男同士で、そんなことできるわけ――」
言葉の途中で久古が低く声を上げて笑う。
「何も知らないのか。初心な奴だな」
「っ……!」
この局面で心底楽しげな笑みを見せるのは反則だろう。爽太は口を引き結び、久古と目を合わせる。柔らかな視線にドクリと鼓動が高鳴った。
「怖いか?」
「ん……別に」
強がって首を振れば、久古は自分の身体に覆いかぶさって軽いキスを落としてくる。腕で身体を支え、こちらに体重が掛からないように気遣ってくれているのが分かった。
久古は優しい。それを知っているから、全てを預けても大丈夫な気がしてしまう。
だけど、やっぱり怖いのだ。だって今まで、こんなことは誰とも――。
「ぅぁ……んッ」
大きな手の平が陰嚢を包み込み、窄まりに指先があてがわれる。
「男同士はここを使う」
「んぁ……あぁっ」
ゆっくりと侵入してきた指の異物感に腰が浮いた。自分の精液でぬるついたそこは、いとも簡単に久古の指を飲み込んでうねる。
「うあ、ッ……そこっ……なんか、変っ……」
内壁のある一点を指の腹で擦り上げられると、つま先から浮き上がるような快感が押し寄せた。
「前立腺だ。聞いたことくらいはあるだろう」
久古は言いながらゆっくりと指の本数を増やしてくる。呼吸が乱れ、返答するどころではない。その場所を擦り上げられるたびに、一度イったはずの自身が硬度を取り戻していくのだ。既に腹につくほど反り返った陰茎は刺激を欲してジンジンと痺れている。
「ぅぁ……」
三本まで増えていた指が一気に引き抜かれ、堪らず呻いた。久古は一つ短く息を吐いて、上着を脱ぎ捨てる。ズボンの金具が鳴る音を耳にし、薄く目を開いた。瞬間、顔が強張る。
「そ、そんなの、挿入らないって」
久古のそれは自分のモノとはまるで格が違った。
「大丈夫だ」
「なんの根拠があって……っぁ……っ!」
薄っすらと笑みを浮かべた久古はそれを窄まりに押し当て、埋め込むように侵入してくる。
「うっ……ぁく……ッ」
意識が飛びそうな衝撃にきつく目を瞑り、奥歯を噛み締めた。
「息を止めるな」
久古の掠れた声が聞こえ、必死で息を吐く。
「んんッ……!」
衝撃を誤魔化すためか、久古が唇を塞いできた。溶けるようなキスに知らず溺れ、身体から力が抜けていく。ずっぷりと根元まで繋がり、ようやく久古が唇を離した。
「キスは好きなんだな」
「ち、ちがっ……」
揶揄するような声に耳が熱くなった。
(俺が、好きなのは……)
「あんた、だっての……っ」
無意識にうわ言を呟くと、久古はクッと喉の奥で笑う。何もかも見透かしたように。
「――可愛いことを言ってくれる」
「うぁッ……!」
繋がった場所を深く揺さぶられ、思考が弾け飛んだ。獰猛な獣を思わせる律動に意識が明滅し、何も考えられなくなる。
水音がこだまする室内に、二人分の吐息が混ざり合った。
深々と身体を貫かれたまま、熱いペニスで内壁を擦り上げられると恐怖すら感じるほどの快感がせり上がってくる。爽太は堪りかねて久古の背中にしがみついた。
「た、かあき、さ……っ」
無我夢中で名を呼ぶと、久古が首筋に噛み付いてくる。その僅かな痛みすら快感にすり替わり、痙攣が全身を駆け巡った。
「っああ……も、イクッ……ああッ――!」
「っ……」
吐精の瞬間、久古が微かに息を詰め、内奥へと熱い体液を注ぎ込んできた。
その熱を感じながら、爽太は未だうわ言のように久古の名前を呼び続けていた。
「ん……あれ?」
ふと目を覚ます。いつの間にか意識が飛んでいたらしい。うつ伏せの身体を起こそうと身じろぎした瞬間、腰が軋む。思わず呻き声を上げ、そのまま枕に顔を埋めた。
「大丈夫か?」
静かな声に目を向ける。久古はベッドの端に腰掛け、紫煙を燻らせながら苦笑を浮かべていた。
「……あちこち痛い」
余裕な表情にムッとし、つい子供じみた抗議が漏れた。久古は低く笑い、そっと自分の頭を撫でてくる。
「加減を間違えたな。悪かった」
その優しい視線と指の動きに、飛びがちな記憶が蘇った。
この男と、セックスをしたのだ。
(うわぁぁ……)
今さらのように羞恥が込み上げ、胸中で悶絶する。自覚できるほど赤くなった顔を枕に伏せた。
異性と手を繋いだこともない自分が、まさかこんな初体験を迎えるなんて。
「耳が赤いぞ」
それで隠したつもりかと、久古は笑う。恐る恐る視線を上げ、自分の頭を撫でる腕に目を向けた。
久古の腕には未だ痛々しい傷跡がいくつも散っている。あの頃とは違って真新しい傷がないのは唯一の救いかもしれない。
けれど、決して消えないだろうその傷痕を目の当たりにすると、我がことのように心が痛んだ。
身体を捩って久古の腕を掴む。引き攣れた傷痕にそうっと口づけると、久古が瞠目する気配がした。
「痛い?」
「痛くはないが……」
訊ねると久古は困惑したような表情で否定を返す。
「気持ち悪くないのか?」
「……え? 何が?」
意味の分からない問い掛けに唇を離し、首を傾げた。久古は心底解せないと言った顔でまじまじと自分を見つめてくる。
しばらくしてようやく質問の意味を理解し、同時に一つ納得のいく事実を見出した。
(ああ……だからいつも長袖なのか)
久古はいつも長袖のワイシャツを身に付けていた。昔と変わらず。
自分の傷痕を他人に見られるのが嫌で。気持ち悪がられるのを恐れて隠していたのだと気づき、そっと目を伏せる。
「あんたも案外怖がりなんだな」
初めて久古の弱い部分を見た気がして、どこか安堵に近い感情が湧いた。この男も、自分と同じように何かを恐れることがあるのだ。
呟いて再び口づけると、久古は小さく息を呑む。構わず舌を這わせた。
少しでもこの傷痕が薄くなるといい。そう願い、舌先で愛撫を続けた。何も怖がる必要なんてない。
過去は決して消えないが、これ以上苛まれることもないはずだ。痛みを伴う過去など、全て忘れてしまえばいい。
そう思った時、やっと久古の言葉の真意に気づく。
(そっか……だから、あの時……)
全て忘れろと言ったのは、決してあの夜を否定するためではなかったのだ。ただ、悪夢を全て忘れろと言っていただけで。
「……あんたも、全部忘れろよ」
自分も同じ願いを口にする。
久古は微かに目を見張った後で、穏やかに微笑んだ。
「もう、とっくに忘れた」
どちらからともなく甘い口づけを交わし、互いに抱き合ったまま眠りについた。
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