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存在しないのかもしれない
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ガッと施錠された扉を開けようとする音が響いた。
扉の向こうで、話すような声は聞こえたが、内容までは、聞き取れない。
少しの時間を置き、室内へと声が掛けられた。
「せんせぇ~。神田先生、いませんかー?」
未だこの場所には、神田のフェロモンが充満している気がした。
傍で生徒を待たせるよりは、この場所から離すべきだ。
オレは、かけられていた鍵を外し、扉を開けた。
廊下に居たのは、3年の犬養だった。
「あれ? 九良…先生でしたっけ?」
高校3年にしては小さな犬養は、オレを見上げ、首を傾げる。
「神田先生、いないんですか?」
出てきたのがオレで、頭に、はてなマークを浮かべながら、犬養が問う。
オレは、無言で犬養を少し廊下へと押しやり、後ろ手に図書準備室の扉を閉めた。
左右に身体を振りながら、オレの後ろを覗き見ようとする犬養。
色濃く神田のフェロモンが漂ってくるこの場所にいても、犬養は、顔色ひとつ変えない。
犬養はβだが、それにしても……。
「お前、平気なのか……?」
言葉に犬養は、不思議そうに、オレを見やる。
「まだけっこう感じるけどなぁ。あてられるヤツもいるだろ……」
ぼそりと放った言葉にも、犬養は、きょとんとした瞳で、オレを見上げるだけだった。
真ん丸な瞳が、愛玩動物のそれに見え、胸奥が擽られる気がした。
なんとなく気になる存在だが、こいつは、Ωじゃない。
オレは、心を揺さぶられるような存在に、未だ出会えていなかった。
オレの[運命の番]は、この世にいないんじゃないだろうかとさえ思ってしまう。
Ωの発情フェロモンに翻弄されこそするが、自分のものにしてしまいたいと思えるほどの存在は、見つけられていなかった。
[運命の番]が存在しないのなら、オレは、神田を守ってやるコトも出来るんだよな……。
オレが、神田を番にすれば、あいつはあんな風に悩まされるコトもなくなるだろう。
「神田先生に用なら、代わりにオレが聞くけど……」
オレの言葉に、犬養は、はっとした顔をする。
忘れかけていただろう用事を思い出したようだ。
「これ、課題のノートです。クラス分。渡しておいてもらって、いいですか?」
こてんと首を傾げ、オレに伺いを立てる。
「あぁ」
犬養の両腕に抱えられているノートを、オレは、無造作に持ち上げ受け取った。
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