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無味無臭のβ
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「何したらいい? なんか出来るコト……」
しゃがんだままの想汰の瞳は、答えを探すように、きょろきょろと揺らぐ。
「お前のコト、傷つけたくねぇんだよ」
想汰は悪くないのに。
俺を心配してくれているだけなのに。
どうにもならない苛立ちが、心をささくれさせた。
「俺のコト、困らせたくないなら、離れてろってっ!」
抑えきれない衝動が、言葉を、声を、荒くした。
不意に立ち上がった想汰は、無言で俺に歩み寄る。
「想…たっ」
叱るように放った俺の声は、想汰の腹の辺りに吸い込まれた。
想汰が俺の頭を、抱き締めていた。
「なに…し……?」
俺の口は、もごもごと声にならない音を発する。
「いや。ほら、オレって、βだから、無味無臭じゃん? どっかのΩのフェロモンにあてられたとかなら、その匂い、上書きして消せばいいのかなーって?」
ぎゅうぎゅうと俺の頭を抱きかかえながら、想汰は、根拠のない持論を展開した。
想汰の提案にぽかんとしている俺に、抱き締めていた身体が、はっとしたように硬直する。
「…てか、無味無臭なら、消せねぇじゃんっ。上書き無理じゃね?」
慌てたように俺の頭を解放した想汰は、ガーンと書かれている顔を曝している。
独りで考え、独りで突っ込み、独りで落ち込む想汰に、まるで1人コントを見ているようで、俺は、吹き出していた。
先程までの色々な衝動が、じわりと引いていく。
「はぁ……。たぶん、平気だ」
深く息を吐き、目の前の椅子を引いた。
視線で、想汰を座らせる。
想汰は、不安そうにしながらも、ゆっくりと腰を下ろした。
「サンキューな」
口角を上げ、にこりと笑んで見せる俺に、想汰も照れたような、安堵の笑みを浮かべる。
笑みがすっと引いた想汰の顔は、心配そうな色を浮かべた。
「……今まで通りでいい?」
何を言っているのかわからずに、俺は眉根を寄せた。
訝しむ俺に、想汰は、言葉を繋ぐ。
「お前、αじゃん? この世界の頂点じゃん? こんな平々凡々な俺と生きてる世界違うじゃん?」
不安そうな、残念そうな、困ったような。
色々な感情が入り混じった顔で俺を見やる想汰に、弛い笑みを浮かべる。
「なんも、かわんねぇよ。想汰は想汰だし、俺は俺。親友は親友だろ」
心配そうな想汰の頬を指で摘まめば、痛がりながらも、けらけらと笑った。
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