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そこにあるのは、同情のみ < Side神田
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あまり人と関わらないように、僕は極力、図書準備室に籠っていた。
発情期が始まって、3日ほどが過ぎていた。
今までと何ら変わらない生活を送っているはずなのに。
瓶に詰められている錠剤。
通常、発情期でも3錠も飲めば、1日を難なく過ごせる。
僕は、蓋を開けた瓶を傾け、掌の上に、6錠ほどを転がした。
1日に摂取していい最大量は4錠まで。
それも、間隔を開けて飲めと明記されている。
発情期だというだけで、こんなに身体がいうことを聞かないのは、この薬の副作用なのだろうか。
身体が、この薬に慣れてしまったのだろうか。
でも、飲まないわけにはいかないし、この発情状態を抑えないと仕事にならない。
ふらりと図書準備室に入ってきた九良は、部屋の匂いを嗅ぐように、顔を上へと向けた。
「お前……また強くなってないか?」
すっと近づいた九良は、僕の首筋に鼻先を近づける。
思わず、身体を反らせ、九良から逃げた。
「ごめん。薬、飲むから」
更に身体を寄せようとする九良を押し退け、僕は手にしていた6錠の薬をそのまま口へと放った。
「おま……っ。何錠飲んでんだよ……」
そのまま飲み下し、視線を向ける僕に、九良は、心配げな顔を見せる。
「大丈夫だよ、……たぶん」
ふぅっと身体の熱を押し出すように重たく息を吐いた。
「なぁ、……オレと番になるか?」
頸にかかる髪を、ふわりと退け、唇を寄せられた。
αに意味を持って、頸を噛まれれば、番となる。
そこにΩの意思など関係ない……。
僕は慌て、その唇を阻止するように、掌で頸を隠した。
「オレの傍に居れば発情期に悩まされることもなくなるぞ?」
紡がれる言葉の熱い吐息が、掌をすり抜け、僕の背を痺れさせる。
この甘い誘惑に頷けば、僕は、楽になれるのかもしれない。
「オレがずっと守ってやるよ?」
でも、その温度もニュアンスも、完全なる同情だ。
そこに、愛情の欠片すら存在していない。
九良の歯は、頸に届かない。
柔く噛まれた手の甲に、その言葉に、絆されそうになる。
僕は、小さく首を横に振るった。
違うと訴える。
そこにあるのは、同情だけ。
身体の中心が、第六感のような現実には感じられない感覚が、この男は[運命の番]ではないと、訴えていた。
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