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不安の色
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犬養は、まだ事態を飲み込めていないように、何度となく瞬きを繰り返す。
「君の今の状態は、たぶん発情期の前兆のようなものだ」
ぽかんとした顔で僕を見ている犬養は、状況を理解できていない。
「先生、入るよ」
コンっと小さなノック音を立て、扉を開いたのは、近衛だった。
僕と犬養の瞳が、扉へと向く。
「たかっち」
「っ……」
名を呼び、不安そうな瞳を向ける犬養に、近衛は、腕で口許を塞ぎながら、険しい表情を浮かべた。
「まだ、飲ませてないの?」
袖口で、もごもごとなる声のままに、近衛は、僕へと言葉を投げる。
纏わるフェロモンを振り払うように、近衛は、頭を大きく振るった。
「ちゃんと説明した方がいいかと思って」
僕は、引き出しを開け、抑制剤の入った瓶を取り出した。
「とりあえず、1錠、飲んでおこうか」
ころりと手の上に転がした錠剤を、犬養へと差し出した。
錠剤を摘まんだ犬養は、不思議そうにそれを見やる。
「変なものじゃないよ。抑制剤。僕も普段から飲んでいるものだから、安心して」
言葉にも犬養は、不安げな雰囲気を和らげない。
「先生、これ飲んでても、た…近衛くん、ヤバかったですよね?」
きゅっと小さく眉根を寄せた犬養は、困ったように言葉を紡ぐ。
「[運命の番]だから」
入口から籠った声を放つ近衛に、犬養は振り返る。
いくら抑制しようとも、[運命の番]には、効かない。
微かに漏れ出るフェロモンが、運命の相手を狂わせてしまう……。
「いいからっ。想汰っ、早く飲めっ」
「ぁ。うんっ」
苛ついた音を放つ近衛の急かされるように、犬養は錠剤を口に含み、飲み下す。
「俺、お前のフェロモン、ダメだ」
未だに口許を隠しながら、声を発する近衛に、犬養は泣きそうに顔を歪めた。
「そんな顔すんなよ。なんか、すげぇんだよ、お前の」
俺、まだ独り身だし…と、付け足す近衛に、申し訳なさに、気分が落ちる。
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