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その事実は、丁度いい口実
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「まさか、またっ………」
母親の言葉に、近衛は、きゅっと眉根を寄せた。
「子供が出来たなんて言わないわよね? もう生まれてるなんて言わないわよね?」
顔を青褪めさせる母親に、僕の顔も引き攣っていた。
子供………?
「出来てないっ。それに、儚とのコトは片付いているだろ。こいつとは関係ないっ」
僕の顔を見やる近衛の表情は、不安だけが浮き彫りになる。
まだ18歳。高校すら卒業していないのに?
でも、近衛はαだ。
Ωのフェロモンに、屈したとすれば、有り得ない話ではない……。
それに、子供が、居るなんて……、丁度いいじゃないか。
丁度いい、口実が……出来たじゃないか。
「子供がいるなんて、知らなかったよ」
穏やかに紡ぐ僕の言葉に、近衛の声は喉に詰まる。
「君には他に好きな人が居た。僕じゃなくても、いいってコトだろ?」
子供が出来た相手が好きだったとは限らない。
『片付いている』なんて表現をするくらいだ…そんな感情は、なかったのだろうとも思う。
だけど、僕じゃなくてもいいのだと…、そう結論付けるコトで、自分を守るしかない。
情けなく笑む僕に、近衛は大きく首を横に振るい、声を張り上げる。
「違うっ!」
ちらりと僕に向けられた母親の視線は、見るだけでも身の毛がよだつとでも言いたげに、直ぐに逸らされた。
「こんな穢らわしい存在と一緒になるなんて、許しませんからっ」
息巻いて、怒りを撒き散らす母親。
「俺は、神田じゃないと嫌だっ」
母親に噛みつく近衛の声。
嬉しい言葉なんだ。
必要としてくれる、大事だと叫んでくれるその声は、堪らない幸福感を僕に与える。
でも。
「……無理だよ、近衛。お騒がせしました……」
僕は、綺麗に頭を下げ、背を向けた。
この場を去ろうとする僕の手首を、近衛が、ぐっと掴んだ。
「待ってっ。待ってよ」
僕を掴む手を振り払い、振り返りもせずに、歩いてきた道を引き返す。
振り払われた手に、母の乱心に、近衛は動きを止めていた。
本当は、過去など、どうでも良かった。
例え、子供が居ようとも、近衛が、これから僕を愛してくれるなら。
……だけど。
一緒になれば、近衛から色々なものを奪ってしまうのが明白で。
近衛の今の生活を、今の幸せを、奪うコトはしたくなかった。
一緒になれないのなら、離れた方がいい。
まだ、間に合う……。
間に合うと思っているのに、心が端から壊れて、崩れていく気がした。
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