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ひび割れて、壊れてく
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休みの学校へと赴き、自分のデスクを片付け始めた。
粗方、片付いたデスクに、横に置いていた便箋に手を伸ばす。
「なにしようとしてんの?」
手にしようとした便箋の上に、だんっと武骨な手が降ってきた。
見上げた先には、九良が、冷ややかな瞳を僕に向けていた。
「近衛の傍には、居られないから」
ぼそりと声を放った俺は、九良の手を押し退け、“退職届“を書くためにその便箋を手にする。
「近衛家…、か」
九良は何かを察し、思案するように、小さく呻いた。
近衛と番になれないなら、傍に居てはいけない。
発せられるフェロモンは、どんなに抑制剤を摂取しても、コントロールできるものでもないし、傍に居ればいるほどに、惑わす力が強くなってしまう。
2度と、彼を惑わせてはいけない。
発情期も、フェロモンも、コントロールできればいいのに。
『オレの傍に居れば発情期に悩まされることもなくなるぞ』
九良の言葉が蘇っていた。
九良と番になれば、いいのか……。
思いついた妙案に、手を止め、九良を見上げる。
「……僕と番になる?」
何を言っているのかわからないと言うように、九良は、顔を顰めた。
自分の放った言葉なのに、僕の心は、ギリギリと締め上げられる。
「お前と番になれば、2度とこんな間違い犯さなくて済む。フェロモンだって、もう出なくなるだろ……?」
良いことを思いついたと言わんばかりに、明るく言葉を放った。
裏腹に、僕の心はひび割れ、壊れていく。
それに、この提案は、九良にとってなんの利益もない。
そんなコトにすら、気が回らなくなっていた。
怪訝そうな瞳を向ける九良に、自分しか見えていないコトに気づかされた。
「お前には、利点ないよな」
自嘲する僕に、九良は呆れたような表情を浮かべ、ふっと鼻で笑った。
「利点とかそんなんは関係ねぇけど、無理だな」
すっぱりと、今度は僕がフラれた。
当たり前だ。
[運命の番]に捨てられたΩなど、誰が欲するだろう。
「…だよね。九良家だって、良家だ。こんな僕みたいな下賎なヤツとじゃ、な」
苦々しく笑う僕に、ふぅっと重たく吐かれる息は、疲れを伝える。
「そうじゃねぇよ。オレ、決めたヤツいんだわ」
僕の視線に、九良の口角が、自慢げに持ち上がった。
あぁ。犬養か……。
忘れていた。
自分のコトで精一杯で。
九良に頸を噛まれ、Ωとなったのなら、九良と犬養は[運命の番]で間違いないだろう。
彼らの関係を壊してまで、自分の利を得ようなんて、僕は何を考えているんだ?
やっぱり僕は、黙って近衛の前から消えるべきだ……。
「……そうだよな」
諦めと安堵が入り交じる気持ちのまま、僕は、声を零した。
ガラッと大きな音を立て、図書準備室の扉が開かれた。
その先に立っていたのは、息を切らせた近衛だった。
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