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おまえ以外、いらない < Side近衛
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学校の図書準備室に駆け込んだ。
片付けられたデスク前に座る神田と、その傍に立つ九良の姿。
俺は、足音荒く傍に寄り、九良を押し退けた。
片付けられた机の上に広げられた便箋には、“退職願”の文字。
「先生、辞めんの?」
きゅっと眉間に皺を寄せ険しい表情で問う俺に、神田は、視線を上げなかった。
先生という職を捨て、俺の前から消えようとしているのは、明白だった。
でも、俺は、神田を逃がすつもりなど毛頭ない。
「子供居るコト、黙ってたのは、…ごめん」
俯いたままの神田の旋毛に向かい、声を落とす。
「でも、好きだったわけじゃないんだ。Ωのフェロモンに…負けた」
孕んだ途端に逃げられたのでは、俺は、どうするコトも出来なかった。
起こってしまった過去は、変えられない。
愛しい気持ちが無くたって、身体を交わしてしまえば、子供は出来てしまう。
まして、生まれてきた子供には、なんの罪もない。
αの俺は、Ωのフェロモンには、どうやったて敵わない……。
「わかってる。もう、怒ってないし…、気にしてない」
こちらを見ようともせずに、神田は、淡々と言葉を紡ぐ。
「……もう、関係ない」
すっぱりと切り捨てるように放たれた神田の言葉に、カッと頭に血が上る。
「関係ないって、なんだよっ」
神田の肩に手を掛け、身体ごとこちらへと向かせた。
反動に持ち上がった神田の瞳は、苦しげに俺を見やる。
本当は、関係ないなんて思っていないクセに。
俺のコト、好きなクセに。
傷ついたような瞳で俺を見やる神田に、怒りの感情が、すっと引く。
「番になろう?」
言葉に、驚きの混じる神田の瞳が、訝しげに俺を見やった。
馬鹿にするように、ふっと息を吐いた神田が口を開く。
「無理だろう。僕は、近衛家には認めてもらえない」
馬鹿げたことを言うなと、神田は、呆れたような瞳で俺を見ていた。
「俺は、家を出る」
「バカなこと言うなっ!」
俺の言葉に被せるように、神田が怒声を放った。
馬鹿なことを言っているのは、俺じゃない。
頭ごなしに怒鳴られ、苛ついた。
「俺は、おまえ以外、いらないっ」
神田の怒鳴り声に挑発されるように、俺の声も荒くなる。
苛立ちのままに放った俺の言葉も、神田の心には、なにも響かない。
「地位も、名誉も、家柄も、権力もっ。なんもいらねぇんだよっ」
叫ぶ俺の言葉にも、取り合おうとしない神田の態度に、苛つきは徐々に膨らむ。
「なんで、わかってくんねぇんだよ!」
伝わらない想いに、叫ぶ声は、虚しさだけを浮き彫りにする。
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