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生きていくためには
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「近衛に捨てられて、死ぬのは僕の方だよ」
虚勢の上に成り立つ、諦め塗れの涙声。
僕のすべてを放り出すような物言いに、ぷちんっと音が聞こえた気がした。
僕の腰を抱き、近衛は、身体を寄せた。
反撃する一瞬の隙も与えず、僕の頭を自分の胸許へと押さえ込む。
近衛の手により逸らされた顔。
目の前に曝される僕の頸へと、近衛の唇が迫る。
「……舐めんなっ!」
放たれた声とともに、がぶりと、僕の頸に突き立てられる近衛の八重歯。
痛みと、苦しさと、計り知れない幸福感が僕の胸を支配する。
僕は、もう、……逃げられない。
ぐっと近衛の胸を押しやり、涙塗れの情けない顔で、近衛を睨め上げた。
「僕を、殺したいのか……? [運命の番]と一緒になり、引き裂かれた後のΩがどうなるか、知らないのか……!?」
知らないわけがない。
知っていて、僕の頸を噛んだんだ。
僕を……。
辿り着いた考えに、僕は項垂れた。
「そうか。僕は……死ぬべきなんだね」
近衛の考えを、…近衛家のことを考慮すれば、この結末が順当なんだ。
居なくなって、欲しかったんだ……この世から。
そうすれば、…僕が居なくなれば、何の柵もなくなる。
僕の卑しいフェロモンに、近衛が惑わされることだってなくなる。
僕の導き出した見解に、怒りに満ちた近衛が吠えた。
「死なせるわけないだろっ」
ふざけるなっと、怒鳴る近衛は、伝わらない言葉に、逃がしようのない怒りに、身体を震わせた。
「おまえが居ないなら、生きてる意味すらねぇんだよ……」
苛立つことに疲れたというように、近衛の声は、失速する。
でも、僕を抱き締める近衛の身体は、小さく震え続ける。
暴れる心を押さえつけるように、近衛の身体中が強張っていた。
ふっと息を逃した近衛は、抱き締める腕を弛め、僕の両手で頬を包んだ。
顔を上げさせ、僕の瞳を覗き込む。
「いい加減にしろっ。おまえが俺のために生まれてきたんなら、俺もおまえのためにここに居るんだっ」
じっと見詰める近衛の視線に、じわじわと心が焼かれていく。
「近衛の家がなくたって、そんな後ろ楯なくたって、俺は生きていける」
ゆるりと紡がれる声に、僕は不安に揺れる瞳を向けるコトしかできない。
「でも、お前がいないなら、生きていけないっ」
小さく頭を振るう近衛。
わかるだろう? と、近衛の瞳が、僕に訴える。
紡がれる言葉に、僕を必要とする近衛の想いに、胸が満たされていく。
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