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情けない涙声
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「切るなよっ。……喋んなくても良いから、切るな」
話せたとしても、涙声になりそうで、唇をきつく噛み締めた。
あのときと同じ、唇がビリビリとする。
でも、今日は、キスで慰めてくれる人は傍に居ないから。
じくじくと、その唇はいつまでも、痛いままだ。
無言の沈黙が、胸を締めつけた。
「ごめんな。変な気、使わせて」
口を開いた九良は、謝罪の言葉を紡いだ。
その言葉に、俺は戸惑う。
なんで、謝るの?
…先生は、何も悪くない。
「オレの…、勘違いだったんだろ?」
九良が何を言っているのかわからずに、スマートフォンを握り締め耳に当てたまま、固まっていた。
「オレが勝手に盛り上がってただけなんだよな。お前が断らないから、オレが好きだなんて…都合よすぎるよな」
苦笑する九良の声に、グサグサと胸にナイフが突き刺さる。
「お前のこと、怯えさせるつもりじゃなかったんだけど。ごめんな」
違う。
違う、違う、違うっ。
「もういいよ」
よくない。
何がいいの? なにも、良くないっ。
次々に紡がれていく九良の言葉に、俺は口を挟む余地がなかった。
「もう、なんもしねぇから。逃げなく……」
「ちが……うぅ…」
焦った俺は、声を絞り出した。
九良が、居なくなると思った瞬間、声が零れていた。
俺の口から放たれたのは、鼻水混じりの情けない涙声。
でも、その声は、九良の喋りを止めさせた。
「ごめ……、先生は、……悪、なぃ……」
ぐずぐずと鼻水を啜りながら紡ぐ言葉を、漏らさぬように聞き取ろうと、九良は黙っていた。
一度言葉を切った俺は、息を大きく吸い込み、心を決めた。
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