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近衛家の長男
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手にしていたコンビニの袋をダイニングのテーブルに置いた。
「ごはん?」
両手でマグカップを抱えたまま、懐里は、コンビニの袋に視線を向ける。
オレは羽織っていたトレンチコートを脱ぎ、椅子の背に掛ける。
「あぁ。何も食べてないだろ?」
責めるような瞳を向ければ、懐里は、するりと視線を逸らす。
「一日くらい食べなくても……」
「ダメ。約束しただろ」
むっと唇を突き出した懐里は、仕方ないと言うように、ダイニングの椅子につく。
スーツ姿のまま、温めてもらった弁当をコンビニの袋から取り出し、テーブルに並べた。
スマートフォンから、着信を知らせる音が響いた。
懐里は、ほぼ家から出ないので、電話は持たせていない。
ビジネス鞄の中から、オレを呼ぶスマートフォンを取り出し、画面を確認する。
―― 近衛会長
……オレの実父。
α家系の近衛家。
オレは、近衛家の長男だった。
βだと判明した瞬間、遠縁の瀬居家に里子に出された。
里子とは名ばかりだ。
名字が瀬居となっただけで、中学も高校も全寮制で、瀬居の大人たちとは、ほぼ顔も合わせなかった。
近衛家の系列会社で働いているオレは、仕事の話だろうと、何も考えずに、電話を取る。
でも、会長直々にオレに連絡してくることに、少なからず違和を感じた。
その電話は、オレの平穏を引き裂くことになる。
「はい」
声を発しながら、オレは、その場を離れた。
オレの姿を瞳で追う懐里に、先にごはんを食べるように仕草で促しながら、物置になっている部屋へと足を踏み入れる。
「幸理?」
「はい」
何の用だと問いたかった。
でも、その気持ちは、声にならない。
苛つきと、気まずさが胸の中で入り交じる。
中学の入学前に離れた実父との関係は、良好だとは言い難い。
「一度、近衛の家に顔を出してくれないか?」
父の言葉に、オレは、眉根を寄せた。
「いつでもいい。…いや、早いに越したことはないが」
少しの空白を挟み、オレは口を開いた。
「わかりました。次の土曜に…午前中にお伺いします」
「悪いな」
言葉ばかりの気遣い。
嫌な感じしかしなかった。
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