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逃げ道へと繋がる扉が閉じられる
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約束通り、土曜日の午前中に、近衛の実家を訪れた。
客間に通されたオレの目の前に、記憶より少し年老いた父が座る。
「気づかされたよ、私たちが間違っていた…とね」
オレは黙って、父の言葉の続きを待った。
「αに縛られていたって、何もいいことはない。お前だって、βなのに、今はここまで登り詰めた……」
無理なコトなどないんだな…と、まるで独り言のように父は呟く。
テーブルに落ちていた父の瞳が、するりと持ち上がり、オレに向いた。
「近衛家に戻り、後を継いで欲しい」
真剣な音で放たれた父の言葉。
オレは、理解に苦しんだ。
「跡継ぎなら、賢理が居るでしょう?」
眉間に皺を寄せ、訝しげに紡いだオレの言葉に、父は失笑した。
「あいつは、近衛の家を出た。番と一緒に暮らしてる」
「番……?」
きゅっと寄る眉間の皺。
嫌悪感を露にするオレの表情に、父は、ふぅっと小さく息を逃す。
「[運命の番]だ。母さんが、番の彼を傷つけてしまってね……。きっと戻ってこないだろうな」
困ったように、ははっと乾いた笑いを溢す父。
気持ちを切り替えるように、ふっと小さく息を吐いた父は、オレを見据える。
「うちは、αに固執するのを止めた。だから、……」
長男であるオレが、家に戻って継げと……、言葉にはしないが、父の瞳は物語る。
「今まで影で支えてくれていたお前なら、任せられると思っているんだ。無理にとは言わないが、考えてみてくれないか?」
オレに意見を求めるのか。
オレの意思を考えてくれるのか。
今までは、オレの気持ちなど言葉など、取るに足らないもののように扱っていたクセに。
「少し……時間をください」
オレの言葉に、父は、あからさまにほっとした顔を見せた。
この場で断らないことに、首の皮1枚でもオレが了承する可能性があると踏んだのだろう。
「もちろんだ」
放たれた言葉の強さに、なぜか逃げ道へと繋がる扉が閉じられた気がした。
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