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赤く染まる手首
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儚の身の回りの世話を始めてから、2ヶ月ほど経った頃。
そろそろ懐里の発情期が始まるのではないかと懸念していた。
でも、それらしい兆候は、見られなかった。
「……懐里。いつもの、は?」
遠慮がちに問うたオレに、懐里は、にこりと笑んだ。
「おれ、番できたんだ。今まで、迷惑かけて、ごめんな。もう、平気だから」
懐里の言葉に、オレたちの形容しがたい関係はあっさりと解消された。
それからは、オレと懐里は、普通の友人として過ごしていた。
高校の卒業式の翌日、仲の良い数人で少し遠出をしようと待ち合わせをしていた。
そのメンバーの中に、もちろん懐里も含まれていた。
だが、約束の時間になっても、懐里は顔を出さなかった。
オレは仲間内に、迎えに行き後から合流すると告げ、懐里の家へと赴いた。
インターフォンを押下したが、懐里からの返事はない。
嫌な予感に、ドアノブに手をかけた。
簡単に開いた扉に、オレは、眉根を寄せた。
「懐里?」
小さく呼び掛けるオレの声にも、なんの音沙汰もない。
「入るぞー」
間延びした声を上げ、懐里の部屋に足を踏み入れる。
オレの耳に届いてきたのは、水の流れる音。
不穏な空気に包まれる空間の中、オレは、バスルームの扉を、そっと開いた。
視界に飛び込んできたのは、焦点の合わない瞳でオレを見上げる懐里の姿だった。
上からシャワーの雨が降っていた。
バスルームの洗い場に、服を着たままに座り込んでいる懐里。
その左の手首は、赤く染まる。
右手に握られているのは、カッターナイフ。
その現場は、懐里が自分で手首を切ったのだと物語る。
「懐里っ」
傍にしゃがみ込むオレに、ぶわりと懐里の瞳に涙が溢れた。
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