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自分の考えだけで、片付けるな
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「そんな単純な問題じゃなく……」
「俺と離れたいの?」
神田が言い終わる前に、苛立つままに声を放った。
食い下がる神田に、腹が立つ。
まるで、俺に近衛の家に戻れと、自分の傍から離れていけと言われた気がして、腹が煮える。
怒りを隠すこともせずに、睨めつける俺に、神田の手が頬を目掛けて振り上げられた。
叩くなら、叩けばいいっ。
―― ぺちん
直前で急ブレーキをかけたその手は、柔らかく俺の頬を触れ叩く。
「そんなこと言ってないだろっ。僕は、お前の番だぞっ。お前が居ないと生きていけない番なんだ」
俺の頬に着地した神田の手は、むにゅりとそこの肉を摘まんだ。
「何があったって、どんな思いをしたって、離れないって決めてる」
恥ずかしさを誤魔化すように、神田は摘まんだ俺の頬を引っ張った。
俺の気持ちが落ち着いたのを悟った神田は、そっと頬を摘まむ指を放した。
「僕が怒っているのは、お前がここに居るコトじゃない。お兄さんを蔑ろにしてるコト。自分の考えだけで、片付けるな」
言葉を紡ぎながらも、じっと見詰めてくる神田の瞳に、俺は、居たたまれない気持ちに視線を背け、頷くしかなかった。
気持ちの整理をつけ、俺は、幸理のスマートフォンを鳴らした。
数度の呼び出し音の後、幸理とは別の声が聞こえた。
「もしもし」
番号を間違えたのかと画面を確認したが、そこには、“幸兄”の文字がある
「……誰?」
思わず問い掛ける俺に、電話の相手は、軽く言い淀んだ。
「えっと、…ルーム、メイト」
半疑問形の音を纏いながら紡がれる声は柔らかく、毒気を抜かれる。
「あっそ。兄貴に…幸理の伝えて欲しいんだけど…家のコト、ちゃんと話し合おうって」
幸理が戻って継いでくれれば、丸く収まるんだけどな…と、思わず呟く。
零す俺に、隣に座る神田が、じとっとした瞳を寄越す。
俺は、その視線から逃げるように、顔を背けた。
「家のコト?」
電話の向こうから、鸚鵡返しに問い掛けられた。
真意が伝わっていない気がした俺は、言葉を足す。
「あぁ、実家の、近衛の……」
カツッガッと、擦れるような嫌な音がした。
「賢理っ……」
俺の名を怒鳴るように放った幸理の声が近くなる。
「あとで折り返す」
次の瞬間には、電話が切られ、機械音が耳に残った。
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