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どちらも、選びたくない < Side瀬居
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何も解っていない。
親の敷いたレールの上を、黙って歩んでいればいいものを。
わざわざ波風を立て、オレまで巻き込みやがって……。
近衛の家から戻り、自宅の駐車場に止めた車の中で賢理に電話を掛けた。
勝手に通話を切った賢理にムカついたが、電話を掛けたところで、話は平行線だ。
毛羽立つ心を落ち着かせようと、家に戻り、熱い湯を浴びた。
部屋着を身につけ、リビングへと足を向けた。
リビングから懐里の話す声が聞こえる。
不審に思いながら、開けた扉の先で、スマートフォンを耳に当てている懐里の姿。
「家のコト?」
懐里の言葉に、慌てスマートフォンを取り上げた。
画面を確認すれば、賢理からの着信だ。
「この、え?」
オレを見上げ、小さく呟いた懐里は、瞳を大きく開いていた。
「賢理っ……」
タイミングの悪さに、余計なコトを懐里の耳に入れたコトに、カッと頭に血が上る。
でも、目の前の懐里と話すのが先だと判断した。
「あとで折り返す」
それだけを告げ、電話を切った。
通話を強制的に切断したスマートフォンを、奥のソファーへと投げ出した。
「このえって…あの、近衛家、…だろ?」
オレは、懐里の言葉に、肯定も否定もしなかった。
「凄い家柄だったんだな……」
感心するように、困惑したままに、声を零した懐里。
「そんなことない。現に、βだからって、外に出された人間だ」
オレの言葉に、懐里は、柔らかい笑みを浮かべる。
「でも、呼ばれてるんだろ? 近衛家に、戻るんだろ?」
遠い人になる…そんなニュアンスで放たれる懐里の声に、胸が切なくなる。
養っていくためには、近衛家に戻り、後を継がなくてはいけないだろう。
でも、戻ればきっと、懐里は離れていってしまう……。
相反する結論に、オレは、どちらも選べない。
どちらも、選びたくない……。
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