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子供染みた執着
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「なんで近衛の家に戻んねぇんだよ」
オープンテラスで、アイスコーヒーのストローを咥えながら、賢理は、不服げな声を上げた。
「オレが戻らない理由は、関係ない」
すっぱりと切り捨てるオレの言葉に、ぐっと眉根を寄せた賢理は、苛立つ気持ちを逸らせるように、視線を逃がした。
オレが戻ろうが戻るまいが、賢理が、帰れば済む話だ。
「関係なくねぇじゃん」
オレの顔を見るのも腹が立つと言いたげに、賢理は、視線を外したままに、声を放つ。
はぁっと、面倒そうに息を吐いた賢理の視線が、オレへと戻る。
「幸兄が戻んなかったら、俺が継がなきゃなんねぇだろうが……」
不満げに、呆れ気味に放たれる賢理の言葉。
「それでいいじゃないか」
何が不満だと言うのだ。
αという性を持った段階で、世の中の勝ち組で、総てはその手の中だ。
そんな賢理が近衛の家を継げば、話は丸く収まる。
「俺は、幸兄に何て言われようと、近衛の家に戻る気ない。幸兄が長男なんだら……」
面倒そうに言葉を紡ぐ賢理に、顔が歪む。
こんなときばかり、長男だなんだと言いやがってっ。
長男だろうが、βのオレには今まで関係のない話だったじゃないか。
これまでオレが、どれだけ苦労したかなど、微塵も知らないクセに。
「どうせ、Ωと暮らしたいから、帰りたくないんだろ」
苛立ちが、賢理への嘲りへと変化する。
愛する人と暮らしたいという感情は、わからなくない。
だが、賢理は、αだ。
番になった今、少しくらい離れたところで、なんの障害があるというんだ。
「Ωっていうんじゃねぇよ。俺の番、バカにしてんのか?!」
怒声を響かせる賢理に、きゅっと眉を寄せた。
中傷のつもりでそう称した訳じゃない。
「そんなつもりはない。オレが今一緒に暮らしてる彼は、Ωだ。別に差別や冒涜の意図はない。…でも、お前の帰らない理由は、それなんだろ?」
母に、番を傷つけられたなんて。
そんなの言い訳だ。
番の傍を、一分一秒も離れたくないだけだ。
そんな子供染みた執着に、振り回されるこっちの身にもなれというんだ。
「違ぇよ。幸兄以外、全く違う世界に住んでるだろ? 家督なんて、長男が継ぐのが普通じゃん」
次男も三男も、四男も。
自分がβだと判明した瞬間から、努力を放棄した。
オレと同じように里子に出され、その環境に甘んじて、たいした努力もせず、普通に暮らしている。
「兄貴たちに、俺が劣るとは思ってねぇよ。でも、幸兄には、一目置いてる。私利私欲のためだとしても、αの重役たちに混じり、それなりの地位を確立してるじゃん」
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