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怒られる筋合いはない
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弁当でも何でもいいと言われたが、流石にそれでは味気ない。
オレは、ナポリタンの材料を手に、幸理の家に足を運んだ。
家の前に着き、一応、インターフォンを押下した。
鳴り響く呼び出し音に、中からは、なんの反応もない。
教えられた番号を押し、開錠した。
開けた扉の先で、こちらを見やった1人の人物。
肩まで伸びた黒髪と、細い身体。
ぶかぶかのシャツは、掌の半分ほどを隠し、緩い首回りから覗く首許は、細さを強調している。
驚いたように開かれた瞳は、じっとオレを見ていた。
「お前が、冬峰懐里?」
オレの問いに、目の前の男は、ほんの少しだけ頭を縦に振った。
「邪魔するぞ。……けっこう良い部屋、住んでんじゃん」
周りを見回し、口を開くオレに、懐里は微動だにしない。
「幸理に頼まれたんだよ。あいつも大変だよな~」
家に帰れないって、どんだけだよ…、とぶつぶつと呟く。
靴を脱ぎ、立ち尽くす懐里をリビングへと促そうと視線を向けた。
「……?」
向けた瞳の先、懐里はボロボロと涙を流していた。
嗚咽も音も無く。
「何で…?」
泣いている理由が、わからない。
傍に寄り、その涙を拭おうと手を伸ばす。
数ミリで届く距離に伸びた手は、ぱしりと跳ね退けられた。
すとんっと床へ座り込んだ懐里は、膝を抱え丸まった。
その身体は、ガタガタと震え続け、はっはっと小さく浅く短い呼吸を繰り返す。
過呼吸になりそうなほどに、荒い息遣い。
懐里がΩだと言うことは知っている。
でも、発情期のそれとは違う。
パニックに陥った懐里の対処法を聞いていないオレは、幸理に助けを求めるしかなかった。
懐里から極力、瞳を逸らさずに、スマートフォンを手に、幸理の番号へと電話を掛けた。
数回の呼び出し音の後、電話が繋がった。
「幸理か? ……懐里、パニック状態だ。どうしたらいい?」
オレは、ゆっくりと懐里の前にしゃがみ込んだ。
「……何してんだよっ」
怒りを押さえ込むように放たれた幸理の声に、オレは、呆れ息を吐く。
何でオレが怒られなきゃなんねぇんだよっ。
「何もしてねぇよ。家に着いて、少し声かけただけ」
ふっと怒りを逃がすように息を吐いた幸理が言葉を紡ぐ。
「ぁあ、悪い。懐里に代わって……」
不意に冷静になった幸理は、溜め息交じりに声を放った。
「無理だな。スピーカーにすっから、話せ」
はぁっと重ために吐かれた息に、オレは、スマートフォンを操作する。
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