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膨れっ面が恋しくなる
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「いいぞ」
オレの合図に、深呼吸するような音が響き、幸理の声が続く。
「懐里」
スマートフォンから放たれる幸理の声に、懐里の身体が、ぴくりと反応した。
「幸理、そのまま話せ。たぶん、聞こえてっから」
オレの声に、幸理は、言葉を繋いだ。
「ごめん、今日も戻れなさそうなんだ。ごはん、食べてないだろ? 」
膝を抱えたままの懐里は、時折、鼻を啜るように肩を震わせた。
「そいつ、九良…九良 玄弥って言って、オレの昔からの知り合いなんだ。悪い奴じゃないから……」
悪い奴って、なんだよ。
でも、オレの態度が、懐里をパニックに陥れたのか……?
想汰を連れてきた方が、場が和んだかもしれねぇな…。
拗ねた想汰の顔を思い出し、少しだけ後悔した。
「オレはαだけど、番、居るからな? 取って食おうなんて、思ってねぇから」
小さく丸まっているその身体に向け、放つオレの言葉に、ゆっくりと頭が上がった。
涙で濡れた瞳が、不安の色を灯したままにオレを見やる。
「ごめんな?」
困った笑みを浮かべるオレに、懐里は、小さく頭を横に振るった。
「おれの方こそ、ごめんなさい。もう、平気…だから」
涙に濡れる頬を袖口で拭った懐里は、ふぅっと小さく息を吐き、言葉を繋いだ。
「幸理、ごめんな」
スマートフォンに向け、声を放つ懐里に、幸理の声が返る。
「お前が謝ることないよ。ごはん、ちゃんと食べて、待ってて」
「わかった……」
頷いた懐里は、ゆっくりと腰を上げた。
オレは、スマートフォンのスピーカー機能をオフにし、小さな声で幸理に話す。
「オレ、来ねぇ方が良かったんじゃねぇか?」
戸惑うオレの声に、幸理は、申し訳なさそうに言葉を紡ぐ。
「……なんか、悪かったな」
不安そうにこちらを見ている懐里に、オレも腰を上げた。
「いいけどさ。なんで先にオレが来ること言っとかねぇんだよ」
懐里をリビングへと促しながら、幸理へと声を放つ。
「懐里に電話、持たせてないから、言う術がなかったんだよ……」
「そっか。ま、いいや。飯作るわ」
リビングへと入った懐里をダイニングテーブルへと座らせ、オレは、キッチンへと足を向ける。
「作るのか?」
驚いたような幸理の声。
オレは、材料を広げながら、幸理に言葉を返す。
「あぁ。ナポリタンな。そんな面倒なもんは作んねぇよ」
「そっか。悪いな。よろしく頼む……」
名残惜しそうな幸理の声に、オレは、相槌を返し電話を切った。
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