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真面目な顔で紡がれる冗談
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「今からなら、終電間に合いますよね?」
腕時計で時間を確認する那須田に、オレだけが、帰るのは申し訳ないと感じてしまう。
言い淀むオレに、那須田は、恐ろしいコトを口にする。
「何ならタクシーの領収書持ってきてもらえれば、緊急事態ってことで経費清算させますけど?」
真面目な顔で紡がれる、とんでもない話。
ここからタクシーでなど帰ったら、万札が何枚も軽く飛んでいく。
「いや、そこまではっ」
慌て、否定のために手を振るうオレに、那須田は笑う。
「冗談です。私にもそこまでの権限は無いので」
クスクスと笑いながらも、那須田は、オレの身体を通り過ぎてしまった駅方向へと回転させた。
「でも、問題ないのは、本当ですよ。急なトラブルで予定は狂いましたけど、明日の仕事は私1人でも対応可能ですから」
背中側から、ひょこりと顔を覗かせる那須田。
その表情は、穏やかな笑顔だ。
「大切な人、待たせてるんですよね? 行ってあげてください。寂しい思い、させないように」
ぽんぽんっとオレの背を叩き、心配はいらないと追い払おうとする。
数歩前へと出たオレは、那須田に身体を向け、頭を下げた。
「すいません。お言葉に甘えますっ」
「素直でよろしい」
戯れに上からの目線の言葉を放った那須田は、誉めるようにオレの頭を一撫でした。
急ぎ足で駅へと向かい最終に飛び乗った。
家に帰り着き、そっと隣に潜り込もうと布団をあげると、ひゅっと小さく息を吸い込んだ懐里が、驚きの瞳でオレを見上げた。
暗闇の中で目を凝らし、オレだと認識した懐里は、ほっとしたように息を逃がす。
「……おか、えり」
瞳の端が、涙の痕跡で、赤くなっていた。
掠れた声で掛けられた言葉に、嬉しさと後悔が入り交じる。
「ただいま」
布団に入ろうと、中途半端な態勢のオレ。
懐里は、オレの胸許のシャツを、きゅっと握り締め、擦り寄ってきた。
よほど怖かったのかもしれない。
玄弥の姿に、態度に、昔の番のコトを思い出させてしまったのかもしれないと後悔した。
オレは、懐理の首の下に腕を差し込み、頼りないその身体を抱き締めるように布団に入った。
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