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怪訝な瞳
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どのくらいの時間が過ぎたのかはわからなかった。
ぎりしと長椅子が揺れ、隣に気配を感じた。
視線を向ければ、はぁっと重たく息を吐く白衣の男。
「処置は終わったよ。時期に目を覚ます。でも、今日はここに泊まらせる」
いいね? と瞳を向けてくる男に、オレは頷くしか術はない。
「避妊薬、君が必要以上に飲ませたんじゃないのか?」
男の疑惑に満ちた瞳が、オレを映した。
「な……っ」
まるで、オレが懐里を苦しめようと、無理に飲ませたような言い草だ。
睨めるように見詰めてくる男に、有らぬ疑いに、オレは苛立つ。
「そんなことするわけないだろっ」
荒く声を放ったオレに、男は再び、ほっとするように肩の力を抜いた。
張り詰めていた空気を払拭するように、男は、深く息を吐く。
「そっか、そっか。ごめんな。たまにいるんだよ……」
疲れた瞳を癒すように、目頭を指で揉みながら、男は言葉を繋いだ。
「Ωを抱いて、子供が出来ることが怖くて、用量以上の避妊薬、飲ませるヤツがさ」
過去に居たのであろうその忌々しい人物に向け、男は、宙を睨みつけた。
「ま、抱かれた後に、怖くなって異常摂取するコもいるんだけど……」
何かを思いついたように、はっとした顔のままオレを見やる男。
「君に抱かれて、パニックに……?」
訝しむように紡がれた言葉に、オレは、否定の意を表す。
「いや。……オレたちは、身体の関係はあるけど、それは昔からで」
今更、慌てることなど何もない。
行為の最中に、飲ませている上に、避妊には、念には念を入れている。
「そうだよな。そんな痕跡も、なかったし」
再び、目頭を揉んだ男は、ふっと息を逃した。
「……悪い、プライベートだよな。他人の俺が口を挟むことじゃない……」
疲れたように首を振るい、男は、手首を擦る。
その仕草に、懐里の自害の痕を思い出した。
「……っ、自殺しようとしたのかも」
手首を切るのは怖くても、こんな小さな錠剤なら、普段から口にしている薬なら、死ねると思ったのかもしれない……。
気づいてしまった予測に、胸の奥が、ずきりと痛む。
男の怪訝な瞳が、オレを捉えていた。
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