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垂れ込める沈黙
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「独りで育てられるのっ?」
強めに放ったオレの声は、懐里を黙らせた。
「発情期きたら、どうするの? [運命の番]に出会えたら、どうするの? それこそ、邪魔になるんじゃないの?」
オレは、懐里を矢継ぎ早に責め立てた。
きっと、出来てしまった子供を堕ろすコトに、罪悪感があるだけなんだ。
運命の相手、…αに出会ってしまったら、その子は、どうなる……?
それこそ、邪魔になる………っ。
こうなるコトが嫌だから、オレは、細心の注意を払っていたのに。
望んでもいない子供を、授かってしまった命を、無下になどできるはずもない。
オレの詰問に、懐里は言葉を詰まらせた。
嫌な沈黙が、重く重く垂れ込める。
オレも懐里も、視線を落とし、打開できない沈黙に押し潰される。
「あ、の……」
小さな声を放ったのは、犬養だった。
そろっと腰を上げた犬養は、ちらちらと玄弥に視線を送りながらも、懐里の横へと歩む。
静かに懐里の隣に佇んだ犬養は、その腕に抱えていた物を差し出した。
それは、オレの着古したトレーナーだった。
衣装ケースの中に眠っていたであろうそれを犬養が手にしているコトにも、それを懐里に差し出すコトにも、意味が解らず、眉根を寄せる。
懐里は渡されたオレのトレーナーに顔を埋めた。
まるで、慈しむように、愛でるように、縋る…、ように。
「好きな人の子供、産みたいって思っちゃダメなのか?」
ゆるりと上がった懐里の顔は、今にも泣き出しそうなほど歪んでいた。
溢れそうになる涙を寸前で止め、懐里はオレを睨んでいた。
「αに捨てられたおれは、何も願っちゃいけないのか?」
悔しそうに、苦しそうに、紡がれる懐里の言葉は、オレの胸をも締めつける。
「好きな、ひと…って」
やっと絞り出した声は、心に引っ掛かった懐里の言葉。
「…おれ、幸理が好きだ。だけど、幸理は、昔のよしみで、おれのコト、面倒見てくれてただけなのは、……わかってる」
懐里は、観念したように、言葉を連ねる。
「おれ、未だにαの人…、番になるの、やっぱ怖いんだ」
そっと自分の頸に触れた懐里は、小さく息を零した。
「幸理の傍に居れないなら、おれは、せめて…お前の子供、欲しかったんだ」
ぐっと奥歯を噛み締めた幸理は、瞳を閉じ、残る心を振り切った。
「でも……。そうだよな。ごめん。これ以上、迷惑かけちゃダメ、…だよな」
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