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足首に絡む運命という枷
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怒鳴り声に等しい話し方に、九良の手が、幸理の肩を、ぐっと掴んだ。
掴まれた感触に幸理は、冷静さを取り戻すように、深く呼吸する。
「母がまだαに固執してるのは知ってる。オレも、αの女との見合いをさせられた」
忌々しそうに宙を睨んだ幸理は、苛立ちを逃がすように、ぐっと奥歯を噛み込んだ。
「見合いの話を断ったら、仕事に影響が出そうで、何も言えなかった。オレは、職を失う訳にはいかない」
一度言葉を切った幸理は、渇く喉を潤すために、アイスコーヒーを一口、流し込む。
「そのときはまだ、子供が出来てるってコトは知らなかったけど。だからこそ、仕事を失って、金が稼げなくなったら、懐里と一緒には居られなくなる……離ればなれにって思ってたから……」
アイスコーヒーのグラスに添えられている幸理の手に、きゅっと力が入った。
「でも、決めたんだ。隠し事を止める。懐里のコトも話すし、子供のコトも話す。その上で、オレは、αの女性と結婚する意思がないコトを理解してもらう」
曲がるコトを知らない意思が、瞳の奥でぎらりと燃える。
「もう、近衛家の柵に、…αに囚われるのを止めたいと父は言ってたんだ。だから、βであるオレを呼び戻そうとしてる。αと結婚させたいっていう母の拘りは二の次だろ……」
母の拘りに面と向かって対峙しようとする幸理の決心が、強く放たれる言葉に、滲み出る。
「……結婚前に、子供を作るようなだらしないヤツは、帰ってくるなって言われればそれまでだが」
ふっと自分を嘲るような笑いを漏らす幸理に、俺は、疑問をぶつけた。
「親父たちが許せばいいんだろ? 親父のコトだから、子供ごと帰ってこいっていうと思うけど? ……俺が、継がなくったって、幸兄が継げばいいじゃん」
なぜ俺に継がせるという結論に達したのか、理解できなかった。
子供が居ようが居まいが、Ωである懐里と一緒になろうが、近衛の家を継ぐコトに、なんら支障があるとは思えない。
「懐里の[運命の番]は、見つかってないんだ……」
困ったように、諦め半分で紡がれる幸理の声に、俺は眉根を寄せる、
「もし、今後、懐里の[運命の番]が現れたら、オレは、……身を引く」
断言する幸理に、俺は、ちらりと神田に視線を向けた。
俺との関係を拒絶しようとした神田。
教師という職と、近衛の柵。
総てが、運命に抗うべきだと神田を揺るがせた。
それでも、俺は、運命を信じた。
運命を享受し、神田を手に入れた。
αの俺とΩの神田は、結ばれるべくして結ばれた[運命の番]だ。
でも、幸理はβで。
Ωである懐里には、[運命の番]に出会う可能性も、幸せを手にする権利も残っている。
幸理が、死ぬまで懐里の傍で、添い遂げられるという保証は、どこにもない。
覆せない運命という枷が、幸理の足首を掴んでいる。
「そうなったら、子供はオレが引き取ることになる。独りでの育児は、並大抵のことじゃない。その上、近衛の家を継いだら、オレは、やっていけない」
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