アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
嗅ぎ分けられてしまうだろう < Side 那須田
-
検診が終わり、冬峰をマンションまで送り届けた。
疲れている冬峰に、診察中に買っておいたココアを差し出した。
冬峰は、小さくお礼の言葉を述べ、ダイニングの椅子に座り、ペットボトルを傾ける。
借りていた幸理の車の鍵を、ソファの前にあるローテーブルの上へ置き、病院で書いたメモを手帳から引き剥がす。
『寝不足ぎみだそうです。
寝ている間に、うつ伏せになるのが、怖いそうです。
寝返り防止のため、抱き締めて寝てあげては、いかがでしょう?』
読み返して、首を捻った。
少しお節介かとも思ったが、何も伝えないよりはいいだろうと、自分を納得させた。
最後に、検診は問題なかったコトを書き足し、車のキーケースに忍ばせた。
再び、ローテーブルの上に車の鍵を置く。
ふと、1枚の名刺に目が止まる。
“人探し、素行調査”の文字。
それは、探偵事務所の名刺だった。
私の顔が物欲しげたったのだろう。
「誰か探してるんですか?」
ダイニングテーブルから、冬峰の声が飛んできた。
「あ、いえ……」
歯切れの悪い私の返答に、冬峰は、小さく手を振った。
「おれが探偵になにか依頼したんじゃないですよ。なんか協力して欲しいって言われたんですけど、おれじゃダメだったみたいで……」
肩を落としながら、冬峰は、諦めたような笑みを浮かべる。
「持ってっていいですよ。使わないんで……」
その言葉には、捨てることもできないが、見たくないという思いが隠れている気がした。
「そうですか。では、貰っていきます」
名刺を拾い上げ、ポケットの中へと入れた。
「では、私は仕事に戻りますね」
言葉に、冬峰が腰を上げる。
「ありがとうございました」
ぺこりと下げられる頭に、いえと小さく声を放ち、部屋を後にした。
これは、誤魔化しようがなさそうだな……。
マンションを出て、自分のスーツの匂いを嗅いだ。
Ωのフェロモンの香りは私にはわからない。
スーツの匂いを嗅いだところで、なんの匂いも感じない。
でも、縁(ゆかり)は簡単に嗅ぎ分けてしまうだろう。
自分に纏わりつく懐里の匂いを。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
175 / 224