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月日をとして
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手にしたジャケットを鼻先まで寄せ、吸い込む香りに、身体中に痺れが走った。
……でも、単なる発情とは少し違う。
堪らなく欲しくなるのに、何かが、…違う。
抱きたいという欲望よりも、抱き締めたいという慈愛を強く感じてしまった。
気持ちを落ち着けるように、はぁ…と大きく吐く息に、確証を得る。
「……俺の運命、か」
悟ったように呟く俺に、那須田は、ははっと小さく乾いた笑いを立てた。
「……ですよね。そんな気は、していました。冬峰 懐里…、彼が貴方の[運命の番]ですよね」
首に回していた腕を解いた那須田は、身体を離し、困ったような笑みを浮かべる。
寂しさや悔しさを誤魔化すように浮かべた笑み。
でも、隠し切れない哀しさに、那須田の笑みは歪んでいる。
俺の顔を見ているコトが辛いというように、那須田は深く俯いた。
「私はここを出た方が、いいですか?」
那須田の声が、か細く震えた。
「出ていきたいのか?」
俯き、表情を隠したままの那須田は、小さく首を横振り、否定する。
「でも、運命になんて、勝てるはずないですから……」
諦め混じりに紡がれる言葉には、悲壮の想いが込められる。
覆せないαの運命。
組み込まれないβの性(さが)。
この状況に抗いもせずに、俺が大人しく受け入れるとでも思っているのか?
黙って運命に翻弄されるとでも、思っているのか?
俺は、運命に振り回されて、ここに居る訳じゃ、…お前と居る訳じゃない。
月日をとして、俺は、那須田を手に入れたんだ。
俺は、血縁にαの存在の無いβ同士の両親から突発的に生まれたαだった。
αと発覚してから17歳までの5年間、種馬のような扱いを受けていた。
αの精液は、βやΩとの交配より、αの生まれる確率を上げる。
俺の子種は、高値で売れた。
俺は、あいつらにとっての金蔓だった。
俺を金儲けの道具としか見ていない両親。
呆れてものも言えなかった。
5年もの間、俺の恩恵を受けたのだ。
贅沢さえしなければ、一生、困らないほどの収入は得たはずだ。
育ててくれた義理は、返した。
そう判断した俺は、両親を捨てた。
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