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愛おしい存在は、お前1人
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ぼろぼろに虐げられた過去。
一見ではわからない傷だらけの心の底。
こんな言葉で救えるとは思っていない。
でも、伝えずにはいられなかった。
「俺は、お前に、惚れてる……。好き、なんだ」
人など好きにならないと思っていた。
金蔓としか見ていなかった両親。
道具として扱っていた黒羽。
財力にしか興味のない女やΩたち。
那須田に出会い、庇護したい、独占したい、という感情が自分にあるコトを知った。
「私も、…好きです」
肩に埋もれたまま、籠る声を発する那須田に、心が震えた。
「でも、貴方には、運命の相手がいる。βの私が、貴方と結ばれるコトは、有り得ません」
甘えるように額を預けたままに、那須田が首を横に振るった。
その両手は、放したくないと、離れたくないと、俺のシャツを、ぎゅっと握る。
αであるコトが、腹立たしかった。
自分の知らないところで、運命という鎖が繋がっている。
αである俺は、[運命の番]という名のΩとしか結ばれるコトが許されない。
「そんな馬鹿げたコトがあるか?」
吐き捨てるように放った俺の言葉は、自分の考えに異を唱える。
お互いに想いあっているのに、結ばれないなんて、そんなおかしな運命なんて、受け入れない。
定められた運命を享受した総ての者が、幸せだとは、限らない。
「出会わなければいいんだ。[運命の番]になんて出会わなければ、俺はお前と居られる。俺は、運命を否定する。逆らって足掻いてやるよ」
俺は、腕の中に那須田を抱いたままに、運命に逆らうコトを決めた。
那須田との過去を思い出していた。
あの時、決めたのだ。
俺は運命に逆らい、足掻くのだ、と。
「俺は、足掻く」
言葉を放つ俺に、那須田は、不思議そうな瞳を向けた。
「運命に歯向かってでも、一生、お前の傍に居る。そう、約束しただろ?」
言い聞かせるように言葉を紡ぎ、那須田の頬へと片手を伸ばす。
頬に触れた俺の手に、那須田は小さく頷いた。
「だから、お前も足掻け。嫌だと、駄々を捏ねればいい。俺が好きなら、俺は自分のものだと、我を通せ」
少しずつ積み上げてきた恋しい思いを、一瞬で吹き飛ばされる。
俺のこれまでは、なんだったのかと疑いたくなる。
お前に出会い、お前と過ごしてきた15年もの歳月を無意味なものと捨てるなど、有り得ない。
俺は、運命など信じない。
「俺の愛おしい存在は、那須田、お前ただ1人だ」
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