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柔らかな空気が充満している場所
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不安がる懐里に、ホテルの部屋を一室用意させた。
幸理と神田は、懐里の付き添いとして、その部屋に行かせた。
四六時中スーツでいるのは疲れるだろうと、幸理は、車に私服を積んできているらしかった。
少しの間を明け、俺の元に駆けつけた那須田に、着替えを取りに行ってもらった。
那須田が駐車場へと向かったのを確認し、俺は、スマートフォンを手にする。
数度の呼び出し音の後、落ち着いた男の声が返ってくる。
「もしもし」
「帝斗さん?」
俺の呼び掛けに、電話口の相手、帝斗は、ぁあ…と小さく声を返した。
懇親会への招待状を送っていたが、帝斗は出席を辞退した。
近衛家との黒羽家の関係は、公然の秘密だ。
黒羽家の世間的な印象は、当たり前だが良くはない。
クリーンなイメージのある近衛家が、ダークなイメージの黒羽家と懇意にしているなど、公言する必要はないと、考えているようだった。
「お願いがあるんですけど、【防散スカーフ】を1枚、用意してもらえないですか?」
遠慮ぎみに紡ぐ俺の言葉に、帝斗は、不思議そうに声を返した。
「お前には必要ないだろう?」
確かに、番となっている俺たちには、必要のないものだ。
「いや、俺の番にじゃなくて。兄貴の…幸理のパートナー、Ωなんです。でも、幸理は知っての通りβなんで、番にはなれないじゃないですか……」
理由を述べる俺に、帝斗は小さく相槌を打つ。
「妊婦だからって検体、弾かれたみたいなんですだけど、…やっぱダメですか?」
お伺いを立てるように言葉を紡ぐ俺に、少しの間を開け、帝斗が口を開く。
「いや。問題ない。検体扱いにはするから、データは収集させてもらうぞ?」
帝斗の返答に、俺は、大きく息を逃した。
「はい。お願いします」
弾むように声を返した俺に、帝斗は少しの沈黙を挟み、声を発した。
「早い方がいいな。懇親会、幸理たちも出席してるんだろ?」
「してます……」
懐里の今の状況を話そうとしたが、口を噤んだ。
宇波は帝斗にとっても因縁の相手のようだった。
帝斗の気分を逆立てるようなコトは避けたい。
「その対象者の名前だけ教えてもらっていいか?」
帝斗の言葉に、間髪入れずに声を返す。
「冬峰 懐里です」
「フユミネ カイリだな。……あぁ、これか」
帝斗は電話をしながら、検体申請の情報を調べているようだった。
「わかった。これからそっちに向かう。ホールには行かないから、エントランスまで取りに来てもらえるか?」
「わかりました」
通話を切り、傍に居る想汰と九良に瞳を向けた。
想汰は、皿一杯に盛ったローストビーフを口一杯に頬張っている。
その姿に九良は、呆れ気味の笑顔を浮かべながらも、愛おしさを溢れさせる。
張り詰めた雰囲気の中でも、想汰は変わらない。
想汰の周りだけは、柔らかな空気が充満している気がした。
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