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避けられない決定事項
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九良と想汰はその場に残し、俺は、宇波の姿を探す。
俺だって、腹が立っていない訳じゃない。
直接的な因果関係はなくとも、懐里を苦しめた元凶を、そのまま放っておくことなど出来やしない。
詰まらなそうに壁に凭れ掛かりながら、宇波はシャンパンを傾けていた。
「宇波家の方ですよね?」
俺の言葉に、宇波は、訝しげな瞳を向けた。
「俺、近衛 賢理」
俺の名を聞いた宇波は、慌てたようにシャンパンをテーブルの上に置き、胸の内ポケットへと手を差し込んだ。
名刺でも出し、挨拶でもしようとしているのだろう。
でも俺は、懇意にするつもりなど毛頭ない。
「お前、兄貴の番、弄んだろ?」
予想外の俺の言葉に、宇波は、内ポケットに手を差し込んだままに動きを止めた。
「冬峰 懐里、知ってんだろ?」
宇波の眉間に、きゅっと皺が寄った。
「ま、幸理がβだから、番になれねぇけど……」
「ゆきみち…?」
やっと絞り出し宇波の声は、幸理の名を象る。
「そ、瀬居 幸理。幸理は、俺の実兄。近衛家の長男。んで、幸理のパートナーが、冬峰 懐里」
宇波の頭の中で、散らばったピースが少しずつ繋がり、形を成していく。
「お前が弄んで捨てた、Ωだよ」
煮え繰り返る腹に、宇波を睨めた。
「いつの話だよ……。高校の頃の話だろ? もう、時効だろ?」
動揺に瞳を彷徨わせながらも、宇波は虚勢を張り、開き直る。
苛立ちをぶつけたところで、宇波は反省をするような玉じゃなさそうだ。
「時効、ね…。俺はあの2人は番だって思ってっから。どんなに昔だろうと、やられた事実は変わんねぇんだろ。家族に嫌がらせされたら、黙ってられないっしょ」
俺は、片方の口角を上げ、不敵な笑みを浮かべた。
「お前んとこ、潰すから。覚悟しといて」
宇波家は、レストランの経営を基盤として発展した家柄だ。
レストランで使う食材を、近衛家から仕入れていた。
相手もαだが、近衛家と宇波家では規模が違い過ぎる。
宇波の事業など、近衛家は、簡単に捻り潰せてしまう。
「はぁ? まっ……」
俺の腕を掴もうとする宇波。
俺は身体を翻し、その手を避けた。
「待つわけねぇだろうが。若気の至りで済ます気ねぇから。帝斗さんからもがっつりお仕置きされたらしいけど、俺は俺で、近衛の当主としてお前の社会的地位ぶっ潰すから」
ふっと鼻で嘲笑い、俺は、宇波家を潰すことを宣言した。
「ヤンチャしたのが高くついたな? 御愁傷様」
俺が動かなくても、いずれはこうなる。
諸悪の根元が宇波であると知った幸理が、このまま黙っているとは思えない。
宇波家は、近衛家の跡取り2人に目をつけられたのだ。
避けられない決定事項、宇波家の没落する。
俺の宣言に、宇波は魂の抜けたような間抜け面で、棒立ちになっていた。
すっきりとした気分で、腕時計を見やる。
そろそろ帝斗さんが、ホテルに着く頃合いだろうと、俺は、エントランスへと向かった。
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