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じわじわと広がる諦めの思い < Side夏野
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黒羽に頼まれ、ホテルへと車を走らせた。
乗降場に停めた車の中で、助手席に乗っていた黒羽が、透明のフィルムに包まれた【防散スカーフ】を俺に差し出した。
「悪いけどこれ、近衛のヤツに届けてくれないか?」
俺は、黒羽の言葉に眉根を寄せる。
「エントランスまでは行こうと思ったんだが、近衛家に黒羽の俺がこんなもの渡してる姿見られたら、どんな噂が立つか、わかねぇし……」
黒羽の言いたいコトも、解らなくはない。
でも俺は、車から降りたくは、なかった。
ここで、近衛家主宰の懇親会が行われると、那須田に聞いていた。
たぶんそこに、俺の運命の相手、冬峰もいるだろう。
運命は否応なしに、俺たちを引き寄せる……。
「俺は、行けない」
断言する俺に、黒羽は、怪訝な顔をする。
「この先は、俺の運命に繋がってる」
「お前の運命?」
濁すように放った言葉に、黒羽の表情は曇る一方だ。
「……[運命の番]、冬峰がここに居ると思う」
俺は、車の内装越しに、見えないホテルに瞳を向けた。
「でも俺は、それを…運命を、受け入れたくはない」
忌々しさに、表情が歪む。
「運命は自分で決める。俺の運命の相手は、冬峰じゃない」
振り切るようにハンドルへと視線を戻し、顔を伏せた。
冬峰に、[運命の番]に出会ってしまえば、俺は否応なく、惹かれてしまうだろう。
どんなに那須田を好きだと感じていても、一瞬にしてその想いは、無に返る。
「冬峰……、幸理のパートナーか」
腑に落ちたように、黒羽が声を零した。
手にしている【防散スカーフ】を、ぽんっと腿へと当てた黒羽は、言葉を足した。
「これは、そいつに渡す物だ……」
不意に、妃羅の姿が脳裏を掠めた。
忘れていた[運命の番]を思い出し、泣き崩れた妃羅。
思い出した記憶に、愛しさに、妃羅は幸せに包まれた。
……運命は、絶対なのかもしれない。
諦めの感情が、じんわりと胸を占拠していく。
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