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自信しかない縁の顔 < Side那須田
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幸理に頼まれた懐里の私服を手に、部屋へ急ぐ。
エントランスを抜けた先にある立体駐車場に停められていた幸理の車。
私服を手にするまでに、思いの外、時間を要した。
エントランスに入った瞬間、見慣れた後ろ姿に、声を放った。
不安げな瞳で、私を振り返るその姿に、胸がずきりと痛みを放つ。
運命は、私たちに牙を剥く。
縁はきっと、運命に誘われ、ここに居る……。
残念な思いのままに、縁へと近づき口を開いた。
「なぜ、ここに?」
苦しくて仕方ない胸に、言葉を絞り出す私とは対照的に、縁は安堵するように、大きく息を吐いた。
衝動的に思える動きで、縁は私を抱き締める。
予想外の縁の挙動に、私は、動きを止めた。
「運命は、覆せる」
私の肩口に顔を埋めたまま、縁は嬉しそうに言葉を紡いだ。
理解できないその言葉に、宥めるように縁の背を叩いた。
「何の話ですか…?」
不思議がる私に、縁は腕を弛める。
私を見やる縁の瞳は、強い意思を光らせた。
「黒羽に頼まれたんだ」
縁が差し出したのは、透明なフィルムに包まれた真新しい【防散スカーフ】だ。
「これは、冬峰の物だ」
若草色のスカーフに、私の指先は震えた。
「ここに冬峰が居るのは、知ってる。会ってしまったら、きっと俺はお前を捨てる。でも、ここでお前に会えた。……冬峰じゃなく、お前がここに居たんだ」
震える私の手を取った縁は、そこにスカーフを握らせた。
「運命は、俺たちに味方してくれている。そう、思うだろ?」
するりと持ち上げた私の視界に広がったのは、自信しかない縁の顔だった。
縁は、嬉しそうに、愛おしそうに、私の頬を撫でた。
許されるのだろうか。
私は、このまま、縁を思い続けても。
そんな思いが胸に広がる。
「那須田さん?」
耳に届いた賢理の声に、瞳を向けた。
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