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そこに愛があるなら < Side近衛
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抱き締められている那須田の姿に、目が留まる。
離れた2人の間に、那須田へと手渡される透明なフィルムに包まれた若草色のスカーフ。
それが、想汰のつけていた【防散スカーフ】であろうコトは、予測がついた。
何を話していたかは聞き取れない距離に、俺は、那須田の傍へと足を進めた。
「那須田さん?」
少し離れたところから声を掛けた俺に、那須田と話していた人物は、軽く会釈する。
「懐里さんに、と」
手にしている【防散スカーフ】を俺に差し出す那須田に、一緒にいる男は、黒羽の使いなのだと察した。
「ありがとうございます。帝斗さんに、よろしく伝えてください」
那須田からスカーフを受け取り、男へと頭を下げた。
スカーフが俺の手に渡ったコトを確認した男は、軽い会釈と共に、その場を離れていった。
那須田と並んで歩き、エレベータホールへと到着する。
抱き締められていた那須田に、先程の男との関係が、気になっていた。
「あの人…、那須田さんの、…恋人?」
淀むままに問い掛け、ちらりと窺うように俺は、那須田へと瞳を向けた。
「ええ…」
俺の引っ掛かりを感じ取っている那須田は、小さく声を返した。
「でも…α、だよね?」
那須田はβで、男だ。
αの男性と恋仲だという事実が、不思議だった。
あのαの男性がΩや女性なら、恋人だと言われれば、素直に飲み込めただろう。
でも、βで男の那須田が、αの男と恋をする。
それは、有り得ない感情に思えた。
問いかける俺に、那須田は、開かないエレベータに瞳を据えたまま、言葉を紡ぐ。
「ええ。私は、αの彼…夏野 縁と恋人という立場で、同棲しています。……気持ち悪いですよね」
那須田は、どこか諦めたような笑みを浮かべた。
αとΩでもなく、男と女でもない。
世の中の摂理を無視した感情。
でも、そこに愛があるなら。
それは、有り得ないものじゃないのかもしれない。
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