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ケース2:不良(ただのシャイボーイ) 中編
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おい、あの金獅子といわれる不良に似ていなかったか?
俺は今物凄く混乱している。
まさか、あの、不良が…
近くの超不良高校のボスをぶっ潰したとか、
不良グループを一人で殲滅させたとか、
実はイタリアマフィアの跡取りだとか(何故かマフィア)、
そんな噂が絶えないめっちゃ恐れられてる不良が…
あんな子供のようなリアクション…
ほら、こんな…恐いもの見たさで覗く子供みたいなこと…
「…~ッ!!」
「…んなアホな」
思わず突っ込むのは仕方ないでしょう。
だってあの、この辺りで一番の不良って言われてる金獅子様が。
小さい子供みたいにこっちの様子を窺ってるとか。
「あの、」
声をかければビクリとして隠れる。
一々ビクビクすんな、どっちが不良かわからんわ。
ちょっと恐怖心は薄れて、むしろビビった俺の心返せって気分になりつつ。
気になって声をかけたわけだが。
また顔を引っ込められてしまった。
会話ができません。
少し悩んで、俺は立ち上がると出入り口に向かって歩いた。
左手に回ると、上に上がる梯子がある。
俺は苛々したのだ。
そっちがその気なら俺がそっちに行ってやる。
俺の様子が気になったのかまた顔を覗かせているようだ。
俺は登りきったところで、ダン、と足を着いた。
その音に驚いて大きく肩を跳ねさせると、物凄い勢いでこっちを振り返った。
結構間抜けな格好である。
可笑しいな、遠巻きで見た金獅子はもっと尖った空気を出してて危険な感じだったのに。
目の前にいるのはおどおどビクビクと平凡男子に怯えてる、恐がりなゴールデンレトリバーのようだ。
「…やっぱり、鼻先が赤い。ぶつけたのか?」
そう、さっき聞きたかったのはこれだった。
下から見上げてる時、逆光でよくは見えなかったけど鼻が赤く見えた気がした。
もしかしてさっきのゴンて音はそれなんじゃないかって思った。
俺の指摘にばっと両手で鼻を押さえるその姿、何だ可愛い。
「さっきすごい音してたし…大丈夫か?」
苦笑いしながら聞けば目を真ん丸く開いて、鼻を押さえたまま固まって。
手が邪魔だよな、なんて思いながらゆっくり近づく。
硬直して気付かないのは有難い。
そっと手を退かそうと上になってる左手に触れる。
びくっと激しく体を跳ねさせた彼は反射だったんだろう、俺の手を振り払った。
「…ぁ、」
漏れ出たであろう彼の声はか細くて、自分で自分の行動が理解できていないようだった。
弾かれた手にゴツいアクセが当たったのは彼もわかったようだ。
痛いなとは思ったけどあんまり気にならなかった。
それよりもちょうど手がどけられて鼻が見えた。
「あ、鼻の頭擦ってる」
赤いままの鼻、ぶつけたんじゃなくて擦ったのか。
じゃああのゴンて音は何だろう?
ちょっと血が滲んでる、痛そう。
俺はポケットから生徒手帳を取り出すと挟んであった絆創膏を取り出した。
動揺してうまく動けないのに視線だけがおろおろと落ち着かない。
それをいいことに、俺は絆創膏の包みを外して、その鼻頭に手を近付づける。
「動くな」
身を引こうとするのを制して、そっと絆創膏を乗せるようにくっつける。
ぎゅっと目を瞑ってる顔は整っているけどどこか幼さを感じる。
ちょっと押し付けるようにして絆創膏をちゃんとつけてやると体を離して。
「これでよし…目立つけど我慢してな」
鼻を赤くさせてる方が恥ずかしいだろ?と顔を覗き込むと恐る恐る開いた目が俺を見つめる。
グリーンがかった双眸。
吊り上がったくっきりとした二重、長い睫が震えながら影を作っている。
こんな綺麗なもの、見たことない。
見つめ続ける俺に我慢できなかったのか、金獅子はぐっと体を後ろに引いた。
「あ」
ゴッと鈍い音がした。
しゃがみ込んで悶えたいけど声が出ない、そんな感じで後頭部押さえてる。
「…だ、大丈夫?」
顔を俯かせたまま、頷く。
多分大丈夫じゃない。
「たんこぶとか、できたら大変だぞ」
後頭部なんて寝るのに絶対苦労するし。
そう思って保健室行くか?って聞いたけどただ首を横に振るだけだ。
本当に大丈夫か?なんて思ってたら携帯が震えて着信を伝える。
ポケットから取り出して確認すると丹下からのメールで。
そろそろ教室に戻って来いって、そんな内容だった。
時間を見たらそろそろ昼休みも終わる頃。
大人しく従って戻ろうか。
彰嗣、教室帰ったかな…
それだけでも確認しようか、そう思ったら今度は森光からメール。
彰嗣はもういないから帰って来いって…考え読まれてる。
でも、森光のお節介に感謝して俺はまだ蹲ってる金獅子をそのままに梯子を下りた。
弁当箱には手つかずのハンバーグ。
むやみに捨てることもできず、そのまま弁当箱に入れたまま。
考えないようにしながらペットボトルも引っ掴んで屋上を後にする。
「ぁ、」
ドアが閉まる寸前、そんな声が聞こえた気がしたけど。
俺は深く考えることなく階段を降り始めた。
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