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Ride The Wild Wind
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屋敷に到着するとジェイムズが出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ。」
痛ましそうな目で私を見る。そんなに老いぼれただろうか?
ジャパンに居た約一ヶ月、、たしかに怒涛だった。自分で鏡を見てもやつれたと思う。 まあ、しかしロジャーの家に鏡はない。
「ただいま、ジェイムズ元気だったか?」
ジャパンで別れたのはまだ10日ほど前なのに、一年も離れていたような気がする。
「だんな様は奥の庭の、、、墓を見に行かれております。」
お知らせしましょうか?との言葉を断って
「バラを部屋に飾ってくれ。そこへ行って来る。」
カートは乗らずにグランドガラの花束だけを持って歩いた。ジャパンに出発した時は9月の後半、まだ夏の名残が残っていた。
今はすっかり秋の景色に染まっている。木々は金色に色づき芝生や草にも黄色い色が混ざっている。そして風も冷たい。トンボや虫が低く飛ぶ。
庭と森の境目、ツツジの木が連なって植えられその背後には背の高いフェンスが張り巡らされている昔そこでレジーナのプロモーションビデオを撮影した。寒い冬の日だった。指が凍えてギターが弾けなかった。
そこにロジャーは自分の墓を作った。
15分ほど歩いただろうか?早く行きたかったのに近づくと怖い。
彼がどんな態度を見せるか?
いや、私はなんと言うのだろうか?彼に。
徐々に背の低い木々に囲まれた石造りの白い影の前に、金色の髪を秋の日差しに翳した後姿が見えた。また帽子を被っていない。
彼はしゃがみこんで何かを熱心に見ているようだ。風が吹きすぎて草や木立の葉を揺らす。
私の足音が聞こえたのか頭を上げた。
「だめじゃないか?帽子を被らないと。今日は日差しがきつい。」
つい小言が口をついて出た、ゆっくりと振り返る。濃いサングラスで表情は判らない。
「その口から説教以外の言葉は出ないのか?」
再会した最初の会話がこうだ。
「私の入る場所は空けておいてくれよ。」
赤いバラを差し出しながら、体を低くしたままのロジャーに体を重ねて行く。
「、、、、、、、、。」
何も言えない、、ただ力一杯抱きしめた。
ロジャーの髪の匂い。やせた肩の薄さ。まだ少し薬の匂いのする口元。
顔を見合わせる時間ももどかしく唇を重ねる。
そのまま深く貪り合って舌を絡めた。
「私の心臓、私の血、私の鼓動、、、。私の命、、、、。」
今こそ知った。ロジャーに再会するまでの私は生きていなかった。
「どうして今まで生きていられたのだろう?」
わななきながら彼にすがりつく。私は死んでいたのだ。
「君に会うまで、何をしても何も感じなかった。痛いとも辛いとも思わなかった。悲しいとも苦しいとも感じなかった。私は生ける屍だった。」
今やっと体の中を血が巡り始めた気がする。
ロジャーに触れてやっと自分の体がよみがえったのだ。彼を抱きしめてその体をまさぐる。紛れもないロジャーの体。いとおしい彼の唇、彼の耳、彼の首筋、彼ののど仏。
その耳に唇を這わせながら吐息を吹きかけると、ロジャーの体も震えた。
「俺も後悔した、、、。無理にでも君を連れて帰るんだった。」
気が狂いそうだった。と、ロジャーは私の首に両腕を回した。
「君はゲイシャと楽しんだ様だな?」
「君に妬いてもらいたかった。」
素直にうち明けた。
置き去りにされて傷ついたさ、何をやっても気分は晴れなかった。医者はわたしが鬱だと言ったよ。最後は自分が何をするべきか?何者であるのかさえ分からなくなっていた。
「もう私を君のそばから離さないでくれ。お願いだ。」
とうとう二人して墓石の上に倒れる様に横たわった。
彼の唇を吸いながらふとその金髪が散らばった墓石に書かれた墓碑銘が目に入る。
”Life is rock and roll”後は彼の名前と生年だけ。
墓石も白い大理石を四角に切っただけ。さほど大きくもない。十字架すらない。
「えらくシンプルだな。ドラムセットは置かないのか?」
彼の頭越しに墓碑銘を辿りながら。
「やめてくれ。墓にでかいドラムセットなんて据えてどうするんだ。
そんな物、頭の上に置かれちゃ重くて仕方ないだろ。」
笑いながら言った。
「俺は基本的にシンプルな物が好きなんだ。」
そうだ、ロジャーは無駄な装飾は嫌った。音楽もストレートなロックが好きだった。無神論者で神にすがることもなかった。
だが身体を起こすと、墓碑銘を刻んだ石の隅を押すとクルリと石がひっくり返った。そこには金の飾り文字で
「Loved only one to Bryan Rey.」
と、彫り刻んであった。
食い入る様にその文字を見る。私の中に熱い塊が突き上げて来る。
「そいつは俺が掘って、金彩も俺が入れたんだぜ。中々の出来だろう。」
自慢気に私を見上げる。
その顔を掬うと次の言葉を発する前に口づけた。再び彼の体を墓石の上に押し倒した。石で頭を打たないように彼の後頭部に手を回して私の着ていたコートを体の下に敷く。あとは遮二無二ロジャーの体に圧し掛かって行った。
「ちょっと、、、ここで盛るなよ。ダーリン。」
「外でもいいんだろ?今日は暖かい。」
ロジャーの喉仏にかじりつきながら、もう私の衝動は止まらない。
「今日は葬儀屋が来るんだ、棺おけを選ばないと、、、。」
ロジャーは私を引き剥がそうと手を突っ張るがその手を掴み取って自由を奪う。
「そんなもの、いつでもいいだろう。」
彼の首筋に唇を這わせて猛然と突き上げて来る衝動に身を任せる。もう、ためらわない。何があっても彼を抱く!
「ブライアン、駄目だって。今は、、、今は堪えてくれ。」
ロジャーは必死に抵抗するが、今の私には何の抑止力にもならない。私の高ぶりを彼の股間に押し当てて彼の尻をなでた。
「やめろって!ブライアン!
今は駄目だって言ってんだろ。蹴っ飛ばすぞ!」
膝を立てて私の下腹を押すように叫んだロジャーにとうとう押し切られてしぶしぶ体を離した。
「、、、愛してるんだ、、。」
未練がましく恨み言を言う。
「俺もだぜ。だからこれから棺おけ屋、、じゃなかった葬儀屋が来るんだ。
棺おけを選ぶんだってば。君の分も選んでやるよ。」
彼が体を起こすのを手を添えて助けながら、
「棺おけ?」
縁起でもない言葉に思わ顔を歪めてしまう。
「もう?」
「考えても見ろよ。君だって危うく死ぬところだったんだぜ。
俺もヤバかったよな、、、。さすがにあの時はもう終わりだと思ったよ。」
立ち上がって改めて墓石を見下ろす。
「一応、、、、必要なことはみんな決めてはある。
いつ最期を迎えてもいいとは思ってるんだが、、、
やっぱりまだ仕上げたい曲もあるし、、、 もうひとつ、、、
気になっていることがあって、、。」
正面の墓石には彼の名前
”Roger Sailor”の文字とその真下に”Regina”のロゴが刻まれている。
後は彼の生年、さすがに没年はまだ空白だ。
「それにしても、こないだ心臓発作で死に掛けたって言うのに、帰って来るなり襲ってくるなんて、、、!
さすがにイカれたマッド・アストロノーマーだよな。」
笑いながら私の頬にキスをする。
離れようとする体を捕まえてもう一度抱きしめる。
「ロジャー、、私の命を助けたことを後悔させてやる。」
「そうだな、、、ちょっと後悔してるよ。
あのまま君が死んじまってたら、、俺ももう何のためらいもなくあっさり死ねたのにな。」
その唇をふさいだ。もう一度深く口づけた、、と、ほぼ同時に彼の携帯電話が着信を告げた。
「ジェイムズ、来たか?ああ、すぐに帰る。」
携帯をしまうと私の手を引っ張ってカートの方向に歩き出した。
「そのグランド・ガラは墓に?」
私はバラを手に取った。
「まだ主人もいないのに墓に飾ってどうする。」
「そうだな。急ごう。」
気がつけばロジャーの今日の服装はスーツだった。
黒地に薄くストライプを織り出した、粋なカッティングが今の彼の体に合っている。
彼の乗って来たカートで屋敷まで帰るとパーティが開けるほどの大きなリビングにいっぱいの棺が並べられていた。一口に棺といっても色も形もさまざまだ。
オーソドックスなスタイルのものや豪華な彫刻の入った重々しいもの、
豹柄のものや金ぴかの棺、とんでもなくカラフルな色彩に彩られた棺。
ごてごてと飾り立てたデザインや生前の自分の姿を掘り出したものもある。
蓋も蝶番で開くスタイル。両開きのタイプ、完全にセパレートになったタイプ、、本当に種類がありすぎる。
葬儀屋は慇懃に挨拶をして名刺を渡した。助手を采配して一般的な人気の棺から紹介していく。
「やあ、たくさんあって迷うな。でも、色は黒だ。」
ロジャーはまず葬儀屋にシャンパンを振舞った。
「終の棲家に乾杯!」
微妙な表情で乾杯に付き合った彼らは、、ドンペリゴールドの味に感激した。
「シンプルでいい、余計な装飾はいらない。
ダーリン、君はどんなタイプが好みだ?」
ロジャーの頭にはある程度イメージがあるようだ。
「内張りは赤にしてくれ。オレンジ系の赤ではなくて真紅、深い赤だ。」
内張りの布のサンプルを探りながら指定する。
「素材はやっぱりベルベットかな?
シルクでもいいけど手触りのいいものを。」
まあ、死んでるんだから寝心地とか関係ないだろうけど。と笑ってみせる。
葬儀屋は笑っていいものか?複雑な表情を作って愛想笑いを浮かべる。
ロジャーは一架の棺を選んだ、
「そうこんな感じの、、艶のない素材がいい。この木はなんだ?」
「アフリカンブラックウッドでございます。」
「ふ~ん、木だけの地肌で行くとこれがブラックの限界か?やっぱり塗りかな?」
ロジャーは一つ一つ手触りや材質を確かめていく。
私は、ジェイムズに久しぶりにグリーンティを煎れてもらいその見事な味わいにため息をついた。
「ジャパンの高級料亭でも君の煎れたお茶には適わなかったよ。」
惜しみなく賛辞を与えた。まったく本当のことだった。
「恐れ入ります。たまたまDrレイのお好みを私が知っていただけでしょう。」
謙遜するが、ジェイムズの入れたグリーンティはジャパンの料亭でも通じるだろう。
「ちょっと中に入ってもいいか?」
ロジャーは葬儀屋に聞いた。
ギョッとした。試着じゃないんだぞ!
「どうぞ、ご自由になさってください。」
靴は脱いだほうがいいのかな?などと言いながら選んだ棺に足を入れる。
「やっぱり自分で寝心地を試さないとな。」
皆様そうおっしゃいます。と、本当かどうかわからない相槌を打ちながら葬儀屋は笑った。
ロジャーはなんと自分が棺に横たわった写真を携帯で撮影させると、自分で確認する。
ちょっと狭いかな?クッションもイマイチ効いてないぞ。とか言いながらひとつの棺から出ると、もう一つに入ろうとしてよろめいた。慌てて手を添えると
「君もどう?」
「、、、いいのか?」
私は棺おけを見て陰鬱な気分だったが急にその気になった。
「ちょっと詰めて。」
「おいおい、一緒に入ってくるのか?」
笑いながら私の場所を作る。本当は他の棺を選べというつもりだったのだろうが驚いた彼の様子も見ていて楽しい。
「やっぱり狭いな。」
文句を言うと
「そりゃシングルだもの。」
葬儀屋もジェイムズも目を丸くしている。いい気味だ。
「ダブルサイズをオーダーしたまえ。」
「いっそクイーンサイズはどうだ?」
「いいね。レジーナサイズだ。」
振り返ったロジャーに危うくキスをしそうになった。ジェイムズの前ならば躊躇わないが。葬儀屋は第三者だ。うっかりキスなんてしたらこいつのSNSにデカデカと書かれるだろう。
「そうだ!ジェイムズ撮影してくれ。」
もう一度ジェイムズに携帯を渡して
「ジョンに画像を送ってやろう。」
いたずらっぽく笑う。
私はロジャーの背後に回って彼を後ろから抱きしめた。ロジャーは両手を広げておどけてポーズを取ってみせる。
「今度は横になろう。」
さすがに二人はきついので私が横たわった隣にロジャーが片肘をついて隙間に入り込む。ジョンに向かって私は親指を下に向けてサインをした。
もう誰が見ていてもかまわないからキスをしてしまおうか?
そう思った時にロジャーの携帯にジョンから返信が届いた。
”僕の棺おけはどれ?”
生意気に自分の棺を要求して来た。
「あいつには酒樽でも宛がっておけ!」
むかついて言い放つと
「まあダーリン、いいじゃないか。
選んでやろうぜ。」
棺から出るとざっと見渡して
「ジョンはブラウンだな。
マホガニーが似合うだろう。」
一架の棺を目ざとく見つけた。
シンプルでエレガントなデザイン。
「ジョンにはもったいない。
もっと田舎くさいデザインを選んでやれ。」
まあまあ、と宥められ一緒に棺を見繕う。
「君はこれがいいじゃないか?ダーリン。」
ロジャーは真っ白な棺を指差した。
時代がかった凝ったデザイン。
蓋や側面に唐草様の細やかな彫刻が施してある。
「うん、君のイメージにピッタリだ。
内張りは、、、、。」
ロジャーはサンプルの生地見本を広げて、
「シルバーグレー、、
じゃ大人し過ぎるな、、
やっぱりブルーグレー、、?」
ジョンより先に私の棺を見つけてくれたのがうれしくて背後から肩を抱きながら
「君が選んでくれたものならば私はどんな物でもいいよ。」
自分の声にハートマークが付いているのが分かる。
ジェイムズが葬儀屋達にお茶を勧めている声が聞こえる、
「もう少々お時間が掛かりそうなので、どうぞこちらでお茶を、、。」
葬儀屋達が恐縮して遠慮するのを、まず紅茶の説明を始めた。
このダージリンは何月に収穫されて焙煎されたのは、、、、
それからスコーンに使われている小麦の産地の話を始めた。
ジェイムズが必死に葬儀屋達の関心をひきつけてくれている間にこっそりロジャーの耳にキスをした。軽く睨み付けるが耳たぶが赤くなっているのがたまらない。もう彼を抱き上げてベッドに直行したいのに、、!
「ジョンにはやっぱりこれだな。」
ジョンなどゴミ収集車に投げ込んでしまえ。
最初に選んだマホガニーのエレガントな棺に戻った。
「内張りはグリーンだ。
これ、この落ち着いたダークグリーンが似合ってる。」
選んだ棺にサンプルのグリーンの生地を宛がって
「おい!ちょっと手伝ってくれ!」
ジェイムズからジャムの産地と品種について説明を受けていた葬儀屋達は
ほっとした表情でロジャーの声に俊敏に反応した。
ロジャーはジョンのために選んだ棺を中央に置くとその向かって右に私の白い棺を。左側にロジャーと私が二人で入った黒い棺を置かせた。
真ん中の棺に白い紙で”John this is yours”と大きく書いて置いた。
そしてそれぞれの棺に私とロジャーが入り込み、ジェイムズが写真を撮影した。
ジョンのためにここまでやってやる必要があるのか?といささか腹が立ったが一応私がジャパンに旅立った間にここへ来てベースを録音して行ったと言うから、まあ仕方ないか。
ジョンからは”I like it”と言って来た。
当たり前だ不満なんか言ったら殴ってやる。
ロジャーは内張りの素材を指定してクッションの柔らかさまで注文をつける。3つの棺の蓋に”Regina”のエンブレムを入れるように言った。
”Regina”のエンブレムはアートスクールに通っていたフレディがデザインした。
盾を表すフレームの中に獅子座のロジャーとジョンの2頭のライオンが向かい合い、中央の右に私の蟹座の蟹のはさみを現したクロスした剣、左におとめ座のフレディを現した冠を戴いた女性の横顔。
このエンブレムは商標登録もされている。
最初私を現すクロスした剣をハサミにしようとしたがロジャーがハサミよりも剣がいい。と言ってくれてクロスした剣になった。
「ブライアン、約束は忘れてないよな?」
突然ロジャーが私に確認して来た。
「約束?」
唐突過ぎて思い出せない。何の約束をしたか?
ロジャーは私の持って来たグランドガラの花束をばらして棺に敷き詰めた。
そして彼の所有の私の愛器”レッドスペシャル”のコピーを手に取った。
「くれる約束だ。俺が先に死んだら。」
ロジャーは自分が選んだ棺にグランドガラを敷き詰めて、そこにレッドスペシャルのコピーモデルを抱いて横たわった。
「どうだ?似合うだろう?」
黒い棺に真紅の内張り、真っ赤なバラを纏ってレッドスペシャルを抱いて横たわる。黒いスーツのロジャー。美しい。確かに美しい。しかし、、。
「レッドスペシャルはロンドンの自宅に置いてある、、もうポンコツだ。」
「くれると言った。俺が先に死んだら。」
言ったような気がする。
ロジャーがあまりにもレッドスペシャルを褒めるものだから、、。
「もし君が先に死んだら、
入れてあげるよ。」
私は言った。まだ若くて、、、
”死”など別世界の出来事だった。
「君の棺に、このギターを、、、。」
その時ロジャーの瞳は輝いた
「きっとだぜ!忘れるなよ。」
彼は言った。
まさか私よりも先にロジャーが死ぬなど考えたこともなかった。
普通に年をとって老人になって私が先に死ぬものだと漠然と考えていた。
「ブライアン、レッドスペシャルは俺がもらうぜ。」
ロジャーは不敵に笑った。しかし私は
「ギターごときに君の添い寝の役を任せたりしない、、。私が、、。」
「ジェイムズ、タイはアスコットだ色はレッド、、いやバラの邪魔をしない様に、、グレーにするか?メモして置けよ。シャツは白でいいか?
死んでまで息苦しいネクタイをしてくれるなよ。」
ジェイムズは涙ぐみながらメモを取っている。
葬儀屋はロジャーが選ばなかった棺を片付けていた。
「ハーディー・エイミスに黒のタキシードをオーダーしておけ。」
棺には赤いバラ以外を入れるなよ。
と言い置くのも忘れない。
葬儀屋の書類に次々とサインをして行く。
「細かい所はあとで書類を出してくれ。
もう俺が死んでいたらフェリックスかルーカスにサインしてもらえ。」
まるで完全に他人事だ。
葬儀屋もロジャーの淡々とした言葉に黙って頷いている。
「さあ、もういいだろう。」
やるべきことをなし終えて私を見た。
ロジャー、美しいロジャー!死の間際から私が引き戻した。
君は私の物だ!誰にも渡さない。
無言で彼に近づいて抱きしめようとした。
しかし、一瞬早く身を翻したロジャーは
「ジェイムズ俺は部屋に帰る。
今日はもう誰も通すな。電話も取次ぐな。」
そして私の手を取ってリビングから廊下に出た。
「バラを棺に置きっぱなしだ。」
しまったと振り返ったが
「大丈夫だ。バラはあれだけじゃない。」
笑って教えると、私の胸をこぶしで突いて来る。
時間を惜しむようにリビングからの廊下を部屋に急ぐが棺を選ぶ時にはしゃいで体力を使ったのか、疲れた様子で思ったように歩けない。
「はあ、、。」
途中で膝に両手を突いて立ち止まる。たった数メートル歩いて息が上がる彼を見て改めて限られた時間を痛感した。背後から近づいて立ち止まったロジャーを横抱きに抱き上げる。
「うわっ!」
一瞬驚いたが、すぐに私の顔を見て笑う。
「いいぜ、今日は荷物じゃないな。丁寧に扱えよ。」
「承知しました。女王陛下。」
いつもはわがまま帝王だが今日はクイーンで。
部屋のロックをリモコンキーで開けると彼を抱いたまま室内に入る。
と、同時に口づけて体を下ろしながらも唇は離さない。そのまま部屋のソファに倒れこんだ。
「こいつめ!なんてことをするんだ。」
ロジャーはこぶしで私を小突いた。
「危うく、棺おけの中でキスをしそうになったじゃないか。」
「すればよかったのに。がまんなんかしないで。」
また笑って口づける。もう何にも遠慮も我慢もしない。
しかしロジャーは私の体を押しのけると立ち上がった。
「再会の乾杯がまだだ。」
部屋には私の贈った赤いバラが飾られ、アイスボックスにシャンパンが冷やされている。抜かりのないジェイムズ。
やれやれと立ち上がるとシャンパンの栓を抜いた。
「まだあまり飲んではいけないよ。」
「君だってKYOTOの料亭では散々飲んだんだろう。」
「それほどでもないさ。」
実際、心臓手術直後で医者が3人もいる中でそれほど大酒が飲めるはずもない。
「TUKINOKATURAは試したか?」
あれは気圧の変動に弱いから空輸に向かないし、
などと無駄話をするのがもどかしい。
「ロジャー、、。」
背後から抱こうとすると振り返りざまに私の頭にヘッドホンを付けた。
「何?」
さっきからはぐらかされてばかりで思わずしかめっ面になる。
「君の曲だ。」
ヘッドホンから聞き覚えのある旋律が流れて来た。
確かに私が作った”Tears(for wasabi)”だ。
ギターから始まる、ロジャーはその通りに編集したらしい。
しかし私は唸った。ベースだ。
紛れもないジョンのベースライン。
奴のベースははっきり特徴がある。
耳になじみがある私でさえ驚くようなポジションでベースを入れて来る。
「あいつめ、、何がリウマチだ、、、!」
吐き捨てるように言った。しかし、、、
「ドラム、、、?」
ロジャーがウンウンとばかりに首を立てに振ってみせる。
「君が、、?」
「でなかったら誰が?」
「素敵だ。Wonderful!」
彼の体に腕を回してヘッドホンを首に付けた頭にキスをする。
けっして派手でなく控えめに、よく注意しないと聞き逃してしまいそうな
それでいて効果的にブラシスネアやシンバル。
きちんとベーシックなリズムが入っている。
「ああ、これは君のギターだな。」
私のギターの後ろでトーンを変えて同じフレーズを奏でている。
「Excellent!すばらしいよ。ロジャー。ピアノも君が?」
ロジャーはウインクをして
「とりあえず、ね。君が弾き直してくれ。」
「いいや、このままでいい。
ジャズテイストで重くなりすぎない。リバーブも効いてる。」
だけど、とにかく君も一度弾いてみろ。
とピアノに座らされ気が付いたら演奏していた。
完全に上手くはぐらかされてしまった。
悔しいが確かにこのミックスを聞いてしまうと黙っていられない。
「君のピアノがいい。私だともっと重くなってしまう。」
「え?じゃあstringsを入れよう。
もっとツーンと鼻に抜ける感じがほしいな。」
何せワサビだから。と、久々に肩を並べてピアノに座り、ああでもないこうでもない、とアイデアを出し合ってまるで若いバンドの頃に戻った様で時間の経つのも忘れた。途中でジェイムズに軽食をもって来させるが、相変わらずロジャーはアルコールを飲んでばかり。
「少しは食べないと。」
いつものパターンだ。うんざりした顔で
「後で食べるよ。」
この頃は誤魔化すのがうまくなった。
「そう言えば吐き気とかはないか?ジャパンで薬を変えただろう。
副作用は何も無いのか?」
彼は、ついに来たか。と言う顔をした。
「さあ、、。」
また他人事だ。
「ないんじゃないかな?」
ロジャーはヘッドフォンをはずしてCDをかけた。タンゴのリズム。
私の右手を取って立ち上がらせるとタンゴのステップを踏み始めた。
ゆっくりとターンする。
「あれは免疫力を強化する薬だ。」
本来は人間の持つ免疫力が体の中にあるガンを攻撃して発生を抑えている。
しかし、ガン患者の体はその免疫機能がガンに対して働かなくなってしまう。その免疫機能を刺激してガンに対して免疫力を発揮する様に機能させる為の薬だ。
「聞いたよ。
あのジャパンのブラックジャックに。
だけど俺はへそ曲がりだからな。」
その薬も副作用がまったくない訳ではない。
むしろ深刻な状態を引き起こす可能性すらある。
ロジャーが現在、主だった副作用を感じていないのは、、、
とは言え投与は微量だったしまだ1ヶ月も経っていない。
これからかも知れない。
「ロジャー。レンバチニブを試そう。
ティムもあれから癌が成長している様子はないと言っていた。
キイトルーダもある。
今、二つの病院で治験させている、、効果が認められれば、、。」
「ああ、うるさいのがまた始まったか?
どうしてこう、君は極端から極端に振り子が振り切るのかな?」
ついまた治療に対して熱くなる私に面倒くさそうな顔を向けて、大きくターンをすると私を突き放そうとした。
しかし、私は彼の手を放さなかった。
その腕を引っ張って彼の体を逆回転させると私の腕の中に閉じ込める。
「受動免疫療法も試そう、君の体から取り出した、、、。」
そこまで言った時、ロジャーが私の頭に腕を回して激しく口づけて口を塞いだ。
すぐには離さずに深く強く私に噛み付くように口づけを続ける。始めた時と同じくらいの激しさで唇を離したが、、
「そんな色気なの無いことしか言えない口なんて魅力的じゃないぜ。」
唾液の糸を引きながら挑発的な視線で私を睨んだ。
そして、、、もう一度私を食い殺そうとするような勢いで激しく口づける。今度はそのまま離れずにぐいぐいと体を押してくる。
後頭部をつかまれてがっちりホールドされた状態で、いわば私がロジャーに襲われている状態だったが、だんだん私の体にも火が付いて来た。
それまでは引き剥がそうと彼の肩に置いていた腕を片手で彼の後頭部をつかみ片手で背中を抱いた。
ロジャーは今や私の顔を掴んで私を攻めるのに必死だ。舌を使って私の口の中を蹂躙する。
角度を変えて私の舌を絡め取り、吸い上げて自分の口に誘い込み弄る様に軽く噛んでは押し戻す。私の歯の裏をなぞり上あごを嘗め回す。
目は閉じていない、青い瞳を挑発的に乱れた髪の間から光らせながら、それでもピンク色に染まった耳元と合いあまって壮絶な色気を発している。
頭が朦朧として来る。
ロジャーはまだ体を密着させてどんどん私を後方に追い詰めて行った。
とうとう私の足はカウチに突き当たりそれ以上下がりようも無く押し倒されるようにカウチに倒れ込んだ。それでもロジャーは私を攻めることを止め様とはせずに、口づけを深くして来る。彼の背中や腰をなでながらついに私は熱を持った中心を彼の腰に押し付けた。
そこまでしてやっとロジャーは私から顔を離した。
「勃ったな。」
勝ち誇ったように。口元から滴り流れる唾液を片手でぬぐいながら、
「呆気ないな、でも素敵だぜダーリン。」
私の体の上からどこうとした、が、私は彼の体から手を離さなかった。
「、、、、、、、、?」
「君から誘った。」
体を起こしながら一層腕に力を入れて彼をつなぎとめる。
「私に火をつけたのは君だ。分かっているだろうな。」
「ダーリン、、、本気?」
一瞬怯みを見せた。
次の瞬間、体を入れ替えて私がロジャーをカウチに押し付ける。
「、、ダーリン、、、君まだ無理しないほうがいいんじゃない?」
「今更何を言ってるのかな?」
私はロジャーの弱点の耳に唇を這わせて彼をあおって行く。
耳から首筋に唇を這わせて彼の襟元をくつろげる。
ロジャーはまだ私の肩を押すそぶりを見せてはいるが完全に力が抜けている。そんな抵抗は返って男をあおるようなものだと、言ってやりたいがピンクに染まった首筋がたまらなく色っぽくて私も余裕がなくなって来た。
惑乱するロジャーをもっと攻めて乱してやりたいが、あまり困らせてまた膝蹴りをされるのも嫌なので再び体を入れ替えてロジャーを私の体の上にした。
私に馬乗りになってやっと彼は大きく息をついた。
乱れた髪を払い上げる。
「どうしてもヤる気なんだな?」
私は最初からその気だったのを君がはぐらかしていたんじゃないか?それをまた火をつけておいて今更ごまかそうとしても、もうダメだ。
彼の背中から腰を撫で下ろしながらその尻を揉んだ。
ロジャーはスーツのベストのボタンをはずした。
「本当にできるのか?途中で萎えたら笑ってやるぞ。」
「見くびってもらっちゃ困るな。」
ロジャーは今度は私のシャツのボタンを外し始めた。
「肌着を破るのは止めてほしいんだけど。」
「わざわざ着る方が悪い。」
言わなければよかった。
楽しそうに私の肌着に手をかけるとほんの少し力を入れただけで肌着は呆気なく裂けた。頭を下げて私の胸に舌を這わせて舐めあげる。
「ああ、ロジャー、、。」
彼の頭を抱いてその髪をかき乱す。
顔を上げた彼の唇を欲しがって顔を近づけた。
「愛している、、君のすべてを、、、」
もう何度口づけを交わしただろう、それでも飽き足らない。
まだ欲している彼の唇を、、
彼の舌を、、、燃えるような熱さを。
彼のスラックスのベルトを外して床に落とすとシャツを引き出して
その裾から手を入れて背中を直接肌に触れながら撫でさすると、一瞬、怯えすくむ様に彼の体が震えた。必死で呼吸を整える。
「ロジャー、、、もしかして背中が痛むのか?」
「、、、大丈夫だ、、、気にするな、、。」
しかし脂汗が滲んでいる。
「こんなことで萎えるなよ、、痛みなんか忘れさせてくれ、、。」
白い首筋を見せ付けるように頭を後ろに反らして仰け反りながら私の頭を抱いた。
彼の首に強く吸い付いていくつも赤い痕をつける。
シャツのボタンを二つはずして、彼が許すギリギリの所まで着込んでいるダウンベストの前を開けるとそこにも痕をつけた。
片手で背中を撫でながらもう片方をスラックスの中に侵入させる。
その痩せて肉の削げ落ちた尻をやさしく揉みしだくと、熱い吐息をついて抱いていた私の頭を離した。
「できるのか?こんなガリガリの体で、、、欲情なんてできるのか、、?」
私は自分の高ぶりを下から彼の太ももにこすり当てる。
「もう爆発しそうなのを必死で抑えているんだ。馬鹿なことを聞くな。」
ロジャーは私の上半身を押し倒しながらまた口付けてきた。
そして今度は彼が私の首筋からのど仏と唇を這わせ舌で嘗め回す。
そして私の胸にも強く噛み痕をつける。
「ロジャーもっと、、!もっと痕をつけてくれ。君の愛の証を。」
うなされる様に哀願する。
私の乳首を軽く噛む彼の頭を抱きかかえて腰を上下に揺らした。
ジェイムズが持って来た軽食に添えられていたオリーブオイルの小瓶をこっそりポケットに忍ばせていたのを取り出すと、片手で瓶のふたを開けて瓶を持つ片手にゆっくりとオイルを零した。
オイルにぬれた指をもう一度スラックスに進入させて下着の中にまで入る。
彼の尻の割れ目越しに指を進めると、ロジャーは息を詰めて何かに耐えるように固まった。
「ロジャー、、、大丈夫だ、、リラックスして、、ほら、私を見て。」
開いてる方の片手で彼の髪をかき上げて頭の後ろを抑えるとキスのために顔を近づける。 深く口づけて舌を絡めている間にもう片手は彼の尻のすぼみにたどり着いていた。
「私に集中して、、。息を詰めないで、、
愛してるよ。なんて素敵なんだ。君の耳が大好きだよ。
このうなじ、、ピンク色だ、
私がどのくらい興奮している分かるかい?
君に夢中だ。君なしでは生きていられない。」
睦言を絶えずささやきながら彼の緊張をほぐしつつ指を進める。
ロジャーは頭を振りながら上体を揺らしてうつろな眼差しで妖しく微笑んだ。
「もう我慢できない、、!いいかい?」
私も上半身を起こして後ろ向きに倒れそうなロジャーの体を抱きとめると
ひざを立てて彼が倒れない様に支えた。
「優しくしてくれ。」
隠微な眼差しで流し目を送ってくる。
「30年前の君は酷かった、、。」
正確には29年前だ。
「俺はヴァージンだってのに、、、ガンガンやりやがって、、。
おかげで次の日は腰が立たなかったんだぞ、。」
あの夜、たった一晩だけ、、。
「すまなかった、、、。
君が素晴らし過ぎて、、自制できなくて、、。」
「言いやがって、、、っつ、、、、あっ、、!
くそっ、くそっ、、、。ああっ。。」
「ああ、ロジャー、、、愛してるよ。」
「くそっ!俺もだ、、、、。あっ、なんでこんなにデカいんだ?
くそっ、くそっ!この、、、ヒヒ爺め、、、!」
「ロジャー、、、辛いかい?
大丈夫か?頼むよ、くそとか言わないでくれ。」
「ああっ!お、俺がやめろって言っても絶対、、、やめるな、、。
くそ!ああ、、っ。」
彼の悪態を止め様と唇を塞いだが、
荒い息遣いにすぐに開放しなければならなかった。
苦しみ悶える彼を見ると罪悪感と憐憫が沸いてくるがそれ以上の興奮と欲望に支配されてどうにも止められない。
彼の体内に深く楔を打ち込みその外見からは想像もできない、熱さと肉の狭さに締め付けられて私の理性は数億光年の彼方に吹っ飛んでしまった。
「ロジャー、ロジャー、、、!愛してる。君が私を狂わせる、、、!」
「ああ、、俺も、、狂ってるぜ、、、。
何もかも、、くそ!どうでも、、、。
、、、ブライアン、、、ああ、、、殺してくれ、、!
俺をもう、、今、、殺してくれ、、、!」
私の上で狂おしく乱れるロジャーを抱きしめてしかしさらに激しく腰を動かした。
彼はこれ以上声を出したくないのか自分の腕を強く噛み始めた。
「腕を噛まないで、、!
声を殺したいなら、、、私の肩を噛めばいい。」
「ああ、、、ブライアン、、、おれを殺して、、くれ。」
今は彼も私の上で激しく腰を上下させている。
感じているのだろうか?
少しでも私を感じてくれているのだろうか?
次第に息が上がって来ている。
もっと優しくしなければ、、思うのだが、、どうしても自分を抑えることができない。
「最高に素敵だよ、、ロジャーもう、もう止まらないよ。」
だがロジャーはついに私の頭を抱いたまま絶頂を迎えたように仰け反って、震えた、、、!
「俺も、、、、、、、愛してる、、ぜ、、ヒヒ爺、、。」
その言葉を最後に彼の体から力が抜けた、またしても彼は意識を失った。
SEXで相手が失神したのはこれで2回目だ。
もちろん初めての時も相手はロジャーだった。
「、、、、、、、?おれ、、、?何してるんだ、、?」
気がついたロジャーは自分の置かれている状態がはっきりと認識できない様だ。
「風呂、、、?」
水の音をさせて腕を動かすと顔をこすった。
「そうだよ。気がついたかい?」
彼の体をお湯の中で支えながら答えた。
まだぼんやりとした顔で私に視線を向けた。
「俺、風呂に入ってた、、、?」
はっきりとしない様だ。
「うん、すまない。私のせいだ。」
いくらなんでも分別のついた年齢だし、
久しぶりとは言え、そうがっつくこともないだろう。と高を括っていが、、、やはり相当がっついていたらしい。
「ゴムを付けるのを忘れていた。」
「、、、ゴム?」
頭を支えていないとお湯の中に顔を突っ込みそうで
あわてて首の後ろに腕を回した。
「ああ、あれって夢じゃなかった、、、のか、、。
いいよ、、。今更、、子供はできないだろう、、。」
薄く笑って、、、やっと彼の頭の中で事態が結びついたようだ。
「ああ、だけど君の体と服を汚してしまった。」
「、、、気持ちがいい、、、。」
うっとりと湯船に体を浸して再び目を閉じた。
入浴用の薄いバスローブを着せて意識のない彼を風呂に入れた。
また一段と軽くなった体を責苛んだのは他でもない自分だ。
昔、決死の覚悟で差し出されていたロジャーの据え膳に気がつかなくて、指を咥えて何もしなかった。と言う事実を教えられた時から!
何があってももう一度彼を抱く!と決めていた。
ロジャーの少年時代にあった事件のために根付いていたトラウマも克服する方法を考え、 何度かのチャンスに恵まれたものの、なぜかいつも邪魔が入った。
もうこれは、このまま分別のついた年寄りとしての関係でいろと言うことなのか?諦めかけもしたが、、今日、彼の隠された墓碑銘
”ただ一人ブライアン・レイだけを愛した”
と言う言葉を見た瞬間に再び火がついてしまった。
「ロジャー、、、ありがとう、、。」
彼の体を風呂から出してベッドに横たわらせる。
「、、、、?何に、、、?世話されてるの俺だぜ、、。」
彼の手の甲にキスをする。その指を私の頬に押し当てて目を閉じると、、、
「もう一度私に手を差し伸べてくれて、、、
もう一度私にチャンスをくれて、、感謝している。」
外していた指輪をもう一度彼の指に嵌める。
「永遠に、、私は君の物だ、、。
もうけして離れない。」
「ブライアン、、、感謝するのは俺の方なんだろうな、、。
だけど、本当に俺を離さないつもりなら、、、
これから見たくない俺も見なければならなくなるぞ、、。」
「ロジャー、、。」
「死ぬって言うのは、、、
美しいものじゃないんだ。」
静かな目で彼は語り始める。
「このまま病気が進行して行けば、、、
もっとひどい姿を君の目に曝さなければいけない、、。」
ロジャーは自分のおかれた状況を完全に理解している。
自分がこれからどうなるか、、、。
生半可な慰めやその場しのぎの気休めも言えない。ただ、、
「分かっている。だが、私は黙って死神に君を渡すつもりはない。
最後の最後まで抗って戦う。
ロジャー!たとえ死にさえも君をやすやすとは渡さない。」
彼は笑った。
「まったく、本当にイカれた男だ、、。」
ロジャーの瞳から涙がこみ上げてきた。
ベッドに横になっているためにその涙は目じりから耳に向かって流れた。
「誓うよ。たとえ死が俺たちを別つとも、、、。」
ロジャーは私の手を握った。
「永遠に君を愛し続ける、、。
俺たちはLife of Companionだ、、、。」
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