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やがて北の山から冷たい風が吹いてくると、ヨーロッパ中のツバメ達がにわかに騒がしさを増してきた。寒さに弱い彼らは南国の暖かさを求めて次々とアフリカ大陸を目指して飛び立っていく。
ある日の午後。海に落ちかけた夕日をバックに仲間達が街を出ていくのを目にしたソウゲツは、グラスを傾ける手を止めて、ハタと我に返った。
「これはいかん。どうやら冬が近づいてきたようだ。いつまでも腐っていたって仕方がないな。よし、私もそろそろエジプトに行って新しい恋をみつけよう。次につがいを結んだ時は、今度こそ女と添い遂げてみせる」
そう決心し、腰を浮かせて飛び上がった。
が、酒が入っているためか翼が言うことを聞かず、どうもいつもの調子が出ない。
「やれやれ……これじゃあ飲酒飛行になってしまうな」
このまま地中海を渡るのは心許なかった。
「仕方ない。今夜はこの街に泊まって酔いを覚まそう。さて、どこかに雨風を凌げるところは......」
ソウゲツは一晩の寝床を求めて街の全景が見渡せる高台の広場までやってきた。すると円形に配された石畳の中央に、ひときわ目を引く黄金の像が見えたので、思わず「ほう」と息を呑む。
「これは素晴らしい! なんて美しい男の子の像だ。この笑顔も、まるで世界のありとあらゆる幸せを映しているみたいじゃないか」
感嘆しながら近づくと、台座に刻まれたタイトルに目をやった。
「なるほど、君は『幸せの王子様』というのか。ぜひともあやかりたいものだ。こんなツバメにご利益をくださるとは思わんが、せめて足元で寝かせてもらおう。失礼します」
ソウゲツは王子様のピカピカと光る靴を枕代わりに、ゆったりと長い脚を伸ばして寝そべった。
「ふふ、これはいい。まるで黄金のベッドルームだな」
思いがけない贅沢に喜んでいると、そこにどこからともなくキラキラと輝く一粒の雫が落ちてきて、冷えた頬にポタリと当たった。
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