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「実はね……今はこんな姿をしてるけど、ずっと昔、僕はとある星の王子だったんだ。美しい豊かな王宮の中で、大好きな人達に囲まれてダンスを踊ったり、勉強を教えてもらったり、色とりどりの果物を食べたりして幸せに暮らしてた」
少年が言うには、それは何不自由ない生活だった。
周りの皆から「蝶よ花よ」と愛でられ育った王子様は「悲しみ」や「苦しみ」といったおよそ人間が生きる上で直面する「負」の感情をずっと知らずに生きてきたのだという。
王宮はゴージャスな高い塀で囲まれていたから、外の世界のことを知る機会は一度もなかったのだ。
「そう……まさに幸せに生きて、幸せに死んだ。そんな一生だったよ」
王子様は遠い過去を懐かしむように目を細めた。
「やがて僕の像がこの街に作られて、人々の暮らしが隅々まで見渡せるようになったとたん、僕はとんでもないショックを受けた。はじめて知ったんだ。人々がこんなにも飢えや貧しさに苦しんでいたなんて……。大バカだよ。僕は『幸せの王子様』として街の人達に愛されて長い間ずっとここに立っているけど、彼らのために何一つしてあげられることがない。それが悲しくて、悔しくて、ここで毎晩ひとりで泣いてたの」
そう言って俯いた王子様の目には、またひとつキラキラと光る涙が浮かんでいた。
なるほど、この像が他とは一線を画する気高さに輝いて見えるのはそういう事情か。
ソウゲツは少年の瞳に浮き出た涙をハンカチで丁寧に拭った。
「かわいそうに。動くことのできない身で、それはなんとも歯痒いでしょうな」
「だけどね、そこに親切なあなたが来てくれたんだ……!」
王子様は顔を上げると、少しだけ元気を取り戻したように凛とした声を上げた。
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