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「ねえ、ツバメさん。ずっと向こうの小さな通りを入ったところに、古い木造の家があるんだ。そこには病気の男の子がいて、お母さんは仕事をかけもちしながらどうにかその子を治そうと思って看病してる。だけどお金がないから薬や栄養のある食べ物を買ってあげられなくて困ってるんだ。お母さんの手はかじかんで、あかぎれだらけだ。ツバメさん、僕が左手に持っている剣を見て。柄に綺麗な宝石が飾ってあるでしょう?」
ソウゲツは剣を覗きこんだ。そこには少年の言うとおり艶やかな青いサファイアが誇らしげに輝いている。
「それをくり抜いて、あのお母さんに届けてあげてくれないかな? それを売れば薬が買える。きっと男の子は良くなるはずだよ」
ソウゲツは頷いた。
「確かにこれがあれば男の子は助かるだろう。だけどいいんですか? 見たところ、かなり高価な宝石のようだが」
「ちっとも平気だよ。街の人の助けになるなら……。さあ、お願い。一刻もはやくあのお母さんを安心させてあげたいんだ」
「分かりました。行きましょう」
ソウゲツは黄金の柄から器用にサファイアをくり抜き出すと、それを口に咥えて颯爽と夜空に向かって羽ばたいていった。すでにいくらか酔いは醒めていたが、向かい風の寒さがじわりじわりと身に染みた。
明日からはじまる長旅のことを考えれば、体力温存のために今夜はすぐにでも休むべきなのだが……。
・・・・・
ようやく家にたどり着くと、まずは身体にまとわりついた夜露をはらった。ガタついた窓の隙間からなんとか中に入りこむと、人差し指を口に当てながら薄暗い部屋の様子を確認する。
粗末なベッドに小さな男の子が眠っていた。
びっしょりと汗をかいた真っ赤な顔や、ひゅうひゅうと苦しげな呼吸音から、その子が著しく健康を害していることが見てとれる。
母親だろうか? 彼の横でベッドにもたれかかるようにして眠る女性の顔はやつれ果て、手にしたままの針仕事の薔薇だけが奇しくも美しいのだった……。
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