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ソウゲツはベッドまでやってくると、母親の手の甲にそっとサファイアを置いた。
それから男の子の方に向かって優しく囁きかける。
「もう大丈夫だぞ坊や。母上のためにも早く良くなれよ」
すると手にした宝石の重みに気がついたのか、母親がゆっくりとベッドから顔を上げた。
「ま、まあっ。これは一体......!?」
思わず上がったのは困惑の声。
しばらくは夢の続きでも見ているようなぼんやりとした表情のまま固まっていたが、そのうちに宝石の感触が手に馴染んできたのか、やがてうっすらと目に涙を浮かべはじめた。
「ああ、これはきっと神様が私たち親子にお恵み下さったんだわ。坊や、良かったわね。神様はあなたを見捨てずにいて下さったのよ。ありがとうございます神様……ありがとう……!」
母親は男の子の手を握りしめると、これまで押し殺してきた様々な感情を解き放つかのように痩せた身体を丸めて「うっ、うっ」とベッドに泣き崩れた。
明日になれば、男の子はミルクと野菜たっぷりのスープにありつけるだろう。
ソウゲツはその様子を見届けると、静かに部屋を後にして王子様のもとへと帰っていった。
正直なところ、サファイアを届けることについて始めは乗り気ではなかった。
世界中を旅するツバメにとって、生活に困窮する人間はめずらしくない。これまでにも履いて捨てるほど目にしてきたから、その人々に特段想いを馳せることなどなかったのだ。
ソウゲツは今、静かにそれを後悔していた。
・・・・・
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