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ソウゲツは革靴についた泥をはらうと、さっそく王子様の左肩におじゃました。
なるほど。この子の言う通り、そこは足元に比べて快適だ。
視界が開けて海の方まで見渡せるし、何より街中のどこよりも暖かいのが今の自分にとって最高にありがたかった。
「(きっとこの子の心臓の真上にいるからだろうな)」
ソウゲツは夢見心地にそんなことを思ったが、すぐに「いやいや」と考えを改めた。
そうだ……血が通っていないこの像に心臓などあるはずがない。
もし仮にあったとすれば、それが止まった時「幸せの王子様」は人間と同じように死んでしまうことになるのだ。
「(ふふ、そんなバカなことがあるか)」
この高貴な人を自分と同じ生き物の次元で考えるなんて、ずいぶんと恐れ多いことをしたものだ。
こんなツバメを無邪気に慕ってくれるから、うっかり勘違いしそうになる。
「幸せの王子様」は永遠だ。彼は永遠に美しく、幸福の象徴としてこの街の人々に末永く愛され続けるのだから……。
隣からすうすうと安らかな寝息が聞こえてきた。王子様が瞼を閉じて眠りについたのだ。
ソウゲツは静かに夜の海を眺めていた。
ポツリポツリと波間に浮かんだ小さな漁船たちが港を目指して帰ってくるのが見える。
沿岸にある街の盛り場は陽気なオレンジ色の明かりを灯し、人々の笑い声で満ちていた。
「(早くエジプトに行かなくては……)」
あの乾いた砂の国こそ、今の自分が目指すべき港なのだ。明日はこの街に別れを告げて大海原を渡っていこう。
・・・・・
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