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薄暗い部屋。
真っ黒にすすけた煙突から中に侵入したソウゲツは、そのちぐはぐな光景に目を見張った。
月明りにぼんやりと照らされた木の床。粗末なベッド。
部屋のそこかしこには、足の踏み場もないほどのおびただしい量の原稿用紙が所狭しと散らばっている。
紙は薄っぺらく、日に焼けて黄ばんでおり、お世辞にも質が良いものとは言えなかった。
しかし、そこにびっしりと書かれた文字はどれも生き生きとしており、これを書いた若者の情熱や、溢れるアイディアがそっくりそのまま映し出されているかのようだった。
まさに寝食を忘れ、未来への希望を胸にこれを書いていたのだろう。
薪をきらした暖炉に火が無い今、部屋でただひとつの熱源である石油ランプが置かれたデスクの前に例の青年が座っていた。
劇作家だというから、ソウゲツは勝手にシェイクスピアのような線の細い人物を想像していたが、予想に反してこの男はずんぐりとしており、熊のように大柄だった。
しかし、今はその無骨な体躯を貝のように丸く縮め、寒さに耐えながらじっと頭を抱えていた。
顔こそ見えなかったが、ともすれば泣いていたのかもしれない。
この暗い部屋の中でたった一人、デビューを夢見て人知れず努力を続けてきたこの青年。
ろくすっぽ金にもならず、誰からも認めてもらえない日々はさぞや辛かったに違いない。
「ふんっ、こんなもの!」
ソウゲツは青年が右手に握っていたペーパーナイフを力いっぱい蹴飛ばしてやった。
「しっかりしろ! お前のことをずっと見てくれていた人がここにいるぞ!」
・・・・・
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