アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
15
-
・・・・・
ソウゲツは王子様の元に帰りつくと、真っ先に彼の左目に手を触れた。
さっきまでルビーが輝いていたその場所には、もう何もなかった。あるのはただ目の形をした黒いくぼみだけだ。
一人の人間の命を救えたのかもしれないが、今夜はやけに切なかった。
「ソウゲツ、ありがとう。僕の願いを叶えてくれて」
「ああ。しかし、おいたわしいよ。君の顔に傷をつけてしまった。後悔しています……」
「あなたにとってつらいことを頼んでしまったね。ゴメンなさい……」
王子様はソウゲツの姿を見ようと、残された右目をパチパチとしばたかせている。
それに気が付いたソウゲツが移動して目線を合わせると、王子様はニコッと口角を上げて勇気づけるように笑ってくれた。
「ねえ、そんな顔をしないでよ。もうあげちゃったものは仕方ないだろ? 僕はちっとも平気さ。こうやってあなたのことが見えるし、それにあの劇作家の希望に溢れた顔を見たでしょ? あの人の笑顔に比べれば、僕の目の一つなんて安いものだと思わない?」
「これっぽっちも思わない。できることなら今からでも君に取り返してやりたいくらいだぜ」
ソウゲツがきっぱりとそう断言すると、王子様はクスッと小さな吐息を漏らした。
何か言い返してくるのを待っていると、何故か王子様はそのままプイっと夜空に目線を移して黙ってしまった。
本人は隠したつもりだったのかも知れないが、その頬にはまるでリンゴのような可愛らしい赤みが浮かんでいた。
・・・・・
ソウゲツは王子様の右肩にとまった。そこは昨晩とは反対側の肩である。
実を言うと、最初は左肩を選んでとまろうとしたのだが、どういう訳か「そっちは嫌だ」と言われてしまったのだ。
こちらとしては習性として慣れた場所の方が居心地が良く、もう寝るだけだからと思ったのだが、理由を訊いても教えてくれないので、仕方なく右側に移動してきたのだった。
それにしても、今夜の冷え込みはいっそう厳しさを増している。昨日に比べて、冬の訪れがより迫っているのを肌で感じた。
ソウゲツは両翼で全身を包み込みながら、気分を紛らわせるために白い息
を吐きつつ呟いた。
「うう、寒い。今夜はまた一段と冷えるなあ。あの女は無事にエジプトに着いたのだろうか」
すると間髪いれずに少年の声が返ってきた。
「あの女って誰のこと?」
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
15 / 47