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翌日──。
ソウゲツはまだ太陽の昇らないうちに王子様の肩の上で目を覚ました。
海を眺めればいくつもの漁船が波間に浮かび、うっすらと白みはじめた水平線を目指して緩やかに蛇行していくのが見える。
いつもと変わらない人間の営みに、ソウゲツはしみじみとした気持ちで目を細めた。
きっと明日も明後日も、この街はこうしていつまでも平和に続いていくに違いない。そんな予感めいたものを感じる、雲ひとつないお別れの朝だった。
「王子様、起きていますか」
声を掛けるとすでに目を覚ましていたのか、少年はゆっくりと瞼を上げて、こちらを見た。
「おはようソウゲツ、夕べはよく眠れた?」
「おかげさまで」
男は口角を上げて罪のない嘘をつくと、翼を広げてお互いの顔がよく見える少年の拳の上に移動した。
「王子様、私はそろそろここを出発します。ずいぶん遅れをとってしまったが、今から急げば何とか年を越せると思う」
「エジプトに行くんだね。寂しいけど、僕もそれがいいと思うよ」
今朝の少年は、どういう訳かこちらが心配してしまうほど物わかりが良い。
ソウゲツは泣かれてしまうのを恐れていたが、王子様はすでに覚悟を決めていたのか、複雑な感情を瞳の奥にじっと隠してこちらを見ていた。
これでついにお別れなのかと思うと信じられない気持ちだが、お互いの決心が鈍らないうちに早く出発した方がいいかもしれない。
「春になったら、また会いましょう。それまでどうかお元気で」
「ソウゲツも、くれぐれも気をつけてね......。次に会えたら、エジプトの話を聞かせてくれる?」
「もちろんだとも。君へのお土産も、もう決めてあるんだよ。何だと思う?」
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