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それは王子様にとって、目を覆いたくなるような光景だった──。
昇る朝日に向かって飛んでいく愛するソウゲツの後ろ姿を目に焼き付けた後、少年は全身が脱力したような大きな溜息をついた。
「これで良かったんだ」と自分に言い聞かせ、半ば放心状態のままぼんやりと街の広場に視線を落とす。
すると、坂の下の方から夕べ見かけたマッチ売りの少女がとぼとぼと歩いて来るのが目に入った。
今ごろ戻ってきたということは、あれから夜どおし港をさ迷っていたのだろうか?
しかし少女が右手に下げた品物入れのバスケットは相変わらず、ずっしりと重そうで、夕べからほとんど売れなかったことが見てとれた。
少女の顔は青ざめ、無理もないが疲れきっていた。
がんばれ、あと少しでなんとか坂を登りきれる──。
少女が朝露に濡れた石畳に足を滑らせたのは、皮肉にもこの届くことのない声援を少年が叫んだ時だった。
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「ソウゲツ、お願い、行かないで!!」
ふいに耳元でそんな声が聞こえた気がした。
ソウゲツは、急ぐ翼を緩めて首を捻った。
「今のは何だ......?」
身を切り裂くような向かい風の勢いが、たまたまそう聞こえた幻聴だろうか?
しかし、それにしてはやけに耳に鮮明で、微かな胸騒ぎさえ感じる音だった。
間違いない。あれは王子様の声だ。
ソウゲツはついに前進を止めると、眉間に皺を寄せ、朝日に染まりはじめたその街を振り返った。
自分の思い違いだったら良いのだが、あの子の身に何か良からぬことが起こっていたら......。
そう考えると、居てもたってもいられなくなる。
全速力でここまで来たが、引き返すにはまだ造作もない距離だった。
ソウゲツはすぐさま踵を返し、愛する人を断腸の思いで残してきた街の広場へと急行した。
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