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ソウゲツは大空を飛んで行く。
大陸から吹きすさぶ凍てつくような追風は、彼の味方をするように前へ前へと背中を押し出してくれた。
しかし、それにも関わらず飛行の速度はあたかも彼の気持ちを汲み取ったかのようにどんどん遅くなっていく──。
「いったい何を迷っているんだ私は......。王子様は片目までなくして町人のために尽くした。もう十分じゃないか。これ以上あの子に大切なものを失わせない。早く、早くエジプトに行かなければ死んでしまうというのに……!」
飛行の最中、もう何度頭の中から掻き消そうとしたことか。
それでもなお、ソウゲツの脳裏に蘇るのは、王子様との思い出ばかりだった。
あの子によって救われた街の人々の顔。
そして何よりも……。
“僕なら……! 僕だったらソウゲツを待ってるな。あなたはきっと帰ってきてくれるから、何があったってずっと信じて待ってるよ”
その言葉に、またしても心が締め付けられる。
ソウゲツはグッと歯を食いしばった。
他の誰かになんて、とんでもない──!
ソウゲツは目を細めると、進行方向の遥か前方をじっと見つめた。
このまま真っ直ぐに飛べば、夢にまで見たかの国がある。
朝日を照り返しながら煌めく波は穏やかで、空と海とを隔てる一筋の線はキラキラと美しい黄金色に輝いていた。
その色が、あの子にとてもよく似ているなとソウゲツは思った。
・・・・・
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