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ソウゲツはルビーをしっかりと口に咥えると、空に向かって羽ばたき、王子様が心から助けたいと願う少女のもとへと急いだ。
港へ続く広場の隅に目をやると、水溜まりの側にうずくまっている女の子の姿が見えた。目には大粒の涙を浮かべている。
可哀想に。
彼女はすっかり絶望した表情で自らのミスによって売り物にならなくなった商品をじっと見つめていた。
その姿はのちに待ち受ける叔父からの厳しい叱責を、そして理不尽な暴力をその小さな身体で耐える覚悟を決めているようだった。
間に合って良かった。
そう思い、ソウゲツは胸を撫で下ろす。
「待たせて悪かったな。この宝石は君の幸せを誰よりも願うこの街の王子様からだ」
そのまま素早く下降すると、女の子の傍らに転がっていた空のバスケットの中に大切なルビーをコトリと置いて飛び立った。
その僅かな音に気が付いたのか、女の子はぼんやりとそこに目線を移した。そして、すぐに大きな目を見開いた。
「え……あ、あれ? わああ、なんて綺麗な宝石なの。でも、こんな凄いものがどうして私のバスケットに……?」
少女は突然目の前に現れた緋色の宝石を二本の指で大事そうに摘まみ上げた。キラキラと光る朝日にそれを透かして、じっくりと見つめながら考える。
「わからない……。だけど良かった。これを見せればおじさんは許してくれるわ。わたし、ぶたれなくて……すむわ……」
久しぶりに生きた心地がしたのか、女の子は安堵の表情を浮かべると、ゆっくりと立ち上がった。
民家の屋根からその様子を見守っていたソウゲツは、晴れやかな気持ちで微笑むと翼を広げて飛び立っていった──。
・・・・・
「その翼の音はあなただね」
王子様は音のする方に向かって顔を上げると、いつものようにニッコリと微笑んだ。
目が見えなくなっても、こちらにやってくる彼の気配はすぐに分かった。
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