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やがて夕刻になると、広場にソウゲツが帰ってきた。
彼は王子様の拳の上にとまるなり、その目で見てきたことを報告する。
「王子様、東の通りの仕立て屋の前に元気のない老人がいる。彼は少し前にアパートの大家から家賃を催促されて困っていた。近いうちに払えなければ、この寒空の下に追い出されることになるだろう。彼は仕事を得るためによそいきの服を新調したいらしいが、今は生活がギリギリでその金すら工面できないんだ」
その話を聞いた王子様は悲しげに眉を寄せていた。
「それは大変だ。はやく何とかしてあげなくちゃ。だけどあなたも朝から飛びっぱなしで疲れたでしょう? 今日は休んで、また明日そのお爺さんのところに行ってくれるかい?」
「ああ、私のことなら大丈夫だ。良い服を仕立てるっていうのは、なかなか時間がかかるものなんだよ。このまま、すぐに行ってくる」
「ソウゲツ......いつもありがとう。気をつけてね」
ソウゲツは「分かった」と伝えるように少年の頬をサッと撫でた。
そのままゆっくりと下降して腰のあたりまでやってくると、少年のブラウスに唇を寄せ、優しく啄みはじめる。
口にしたのは王子様が「黄金の像」たる所以である全身にまとった眩い金箔。
その一部を丁寧に剥がすと、彼は再び空へと飛び立っていく。
その様子を目にした朝の男の子が「ママ、ほらね!」と嬉そうにソウゲツのことを指差していた。
──そう。
剣の装飾、そして左右の瞳を街の人に与えた王子様は、今度は自分の金箔を剥がし、それを必要とする人達に分けてあげることにしたのだ。
もちろんそれによって彼らの根本的な問題を解決することはできないが、それでも彼らの命を明日に繋げる助力にはなる。
王子様はすでに失った瞳を輝かせるようにしてそう言った。
少年はこの街の人々が自らの力で立ち上がる姿を信じていたのだ。
ソウゲツも彼のこの提案を受け入れた。
そして口には出さなかったが、やがて来る別れの日の前に少しでも多くの役目を果たそうと少年のために力の限り奮闘した。
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