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夜になると、ソウゲツは決まって王子様の左肩にとまって羽を休める。
いかに冷たい夜でも、彼にとって少年の温もりを感じられるその場所が最も落ち着いてよく眠れるからだ。
もともと体力には自信があった。
世界を股にかけてきた若い身体は逞しく、これまで大病を患ったこともない。
大丈夫。
飲み水さえ確保できれば自分はまだまだ飛べるはずだ、と。
ソウゲツはここ数週間ですっかり痩せてしまった顔でそんなことを思っていた。
しかしそんな彼の気力とは裏腹に、呼吸には時折苦そうな咳が混じるようになっていく……。
「うっ……ゴホッ、ゴホッ……」
その音を聞きつけるたび、王子様は眠っていてもすぐにハッと飛び起きた。
心配そうに名前を呼び、「つらいのか」「大丈夫か」などと、しきりに声を掛けてくる。
そのたびにソウゲツは「ははは」と、わざと大きく笑ってみせた。
「大丈夫に決まってるさ。ただの風邪だよ。言っただろう? 今、この街で大流行してるって」
「うん......だけど心配だよ。少し前からずっとそんな感じじゃないか」
「そうだったかな? あんまり気にしてなかったよ。それに風邪を引いたってことは、生きてる何よりの証拠じゃないか」
「ソウゲツ……そうだね、生きてるね......」
「だろう? 私はこの通りピンピンしている。今夜は安心してぐっすりおやすみ」
「うん……」
「いい子だ」
そう言って髪を撫でてやると、少年は恥ずかしそうにコクンと頷き、再びすやすやと浅い眠りに落ちていった。
「(やれやれ......)」
最近はこうしてやらないと王子様はなかなか眠ってくれないのだ。
街を照らす月の明りが、痩せて、すっかり骨と皮だけになった自分の手の甲を青白く照らしている。
ソウゲツは少年の丸みを帯びた可愛らしい頬を指でなぞると、ほっと安堵のため息をついた。
こんな時ばかりは、少年の目が見えないことが心から有難かった。
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