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季節は廻り、いつしかこの街にも暖かな南風が吹く日がやってきた。
日の当たる時間も延び、長らく広場を覆っていた深い雪が溶けると、民家の軒先からようやく外で駆けっこができる子供たちのキャッキャと楽しそうな声が響いてくる。
その様子を横目に、何やら怪訝な顔をしている大人が数名、広場の中央に輪を作るようにして集まっていた。
彼らの目線の先には、この街のシンボルであるヒトの形をした鉛の塊。
幼い頃から親しんできた自慢の偶像の変わり果てた姿があった。
「ふん、『幸せの王子様』か……。金箔も剥げちまって、もうすっかりボロボロだな。しばらく見ないうちに宝石までなくなってるし」
「本当ね。いつの間にこんなにみすぼらしい姿になったんでしょう?」
「見ろよ、足元に汚い鳥まで死んでるぜ」
大人達は口々にそんなことを言いながら訝しげな顔を見合わせていた。
その時、後ろからのしのしと町長らしき初老の男が来てこう言った。
「ふむ、こんなものが街のシンボルだなんて景気が悪いな。観光の目玉にもなりゃしない。よし! この像は早々に撤去してしまおうじゃないか」
「うん、それがいい」
「賛成、賛成」
こうして『幸せの王子様』は街の人々の手によってその日のうちに台座から降ろされたのだった。
不要と見なされた鉛の身体は、次に設置される像の材料として溶鉱炉で溶かされる。
しかしどういう訳か、胸の中心にある「心臓」だけはどんなに高い温度で熱せられてもびくともせずに、いつまでも溶けずに残っているのだった。
これには鋳造を担当するベテランの男も音を上げる。
「いやはや、これ以上やってもムダだ。勿体ないが、この塊は捨ててしまおう」
こうして『幸せの王子様』の心臓は、街外れにある暗いゴミ捨て場に無惨にも捨てられてしまった。
そのすぐ側には、同じく町民によってここに捨てられた痩せたツバメの亡骸が静かに横たわっていた──。
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