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ここは地中海に面したヨーロッパの小さな港街──。
かつて『幸せの王子様』が立っていたこの場所に、ある不思議な噂が流れていた。
例えば、何か困ったことがあって誰かに助けを求めたい時、あるいはちょっとした幸運に恵まれた時、ふと上を見上げると小さなツバメがパタパタと空を飛んでいるというのだ。
ツバメの姿は、なんと冬になっても見られるというから不思議だが、人々はそれを目にするたびに何故かひどく懐かしい気持ちになるのだという。
ある日の昼下り──。
広場を通り過ぎる親子の何気ない会話が聞こえてくる。
「見てママ。あそこに小さなツバメさんがいる! 今日もパタパタとお空を飛んでるよ」
「まあ、本当。じゃあ、今日も何かいいことがあるかもしれないわね。それにしても、やけに急いでるみたいだわ。一体どこに行くのかしら?」
母親の言葉に男の子は得意そうに「うん」と頷いた。
「ツバメさん、きっとあっちの通りでやってる劇を観に行くんだよ。いつも後ろをスイスイ飛んでる仲良しのツバメさんと一緒にねっ」
「はあ......。この子ったら、バカなことを言うんじゃありません。『幸せの王子様』に笑われますよ?」
「えー、なんでー?」
母親の小言に納得がいかない男の子は口をへの字に曲げて拗ねていたが、すぐに「あっ」と目を輝かせると「ほらね!」と空を指差した。
そこにはもう1羽の凛々しいツバメが颯爽と空を飛ぶ姿があったが、よく見ると嘴にチケットらしき白い紙を咥えている。
凛々しいツバメはあっという間に小さなツバメに追いつくと、愛しげに顔を寄せ、頬にキスをした。
晴れやかな青空の下。
仲睦まじい2羽のツバメが、幸せそうに街を飛んでいく──。
<了>
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