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兄弟の喜悦
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ということで、連れて戻ってきました…」
「テンゼロ!!」
アローの自宅でテンゼロの帰りを待っていたミストが飛びつこうとして、動きを止めた。背後にいるシャットに気がついたからだ。しかしシャットの視線はテンゼロに送られていた。
「身分のこともあるし警察に届けるに届けられなくて何週間も帰ってこなくて、帰ってきたと思えば、どういうことだ?」
「心配してジェレミアくんなんて寝不足だよ〜?」
「うるさい!」
「詳しい話は後で説明する。だから今は、その、休ませ…」
「テンゼロ!?」
どさっという音ともにテンゼロは玄関先で昏倒した。ミストとジェレミアが駆け寄ってきてとりあえず運ばなければ、とリビングに連れて行く。それを目で見送ってからアローはシャットに向き直った。シャットの目は相変わらずテンゼロばかり追っている。
「本当はテンゼロに聞くのが一番だけどあの様子だとすぐは無理そうだから。まずは君に聞こうかな。話してくれるよね?」
「…わかってる。でも、あいつらが兄さんに手を出したら全員の首を飛ばす」
「…君、ブレてないね、ある意味安心だよ。とにかく上がって。リビングでなら君のお兄さんの顔も見られるし、それでいいでしょ?」
「そうしてくれ」
シャットは無愛想に返事をしてアローの横をフラフラと通りすぎていく。二人の間に何が起きていたのか二人の様子と臭いで察したアローだったが、テンゼロが連れてきたということはなんらかの決着をつけてきたということでもある。だからアローは警戒を解いて一通りシャットの話を聞くことにした。
シャットがぽつりぽつりと語ってくれたおかげで大筋を把握したアローたち三人だったが、肝心のテンゼロは目を覚まさず未だ黙したままだ。シャットはその点について一切語らないので全容は測れないが相当に無理を強いたらしい。ミストは目を閉じたままのテンゼロを心配そうに見つめている。シャットは何を考えているかわからないがテンゼロとミストを瞳に映している。構図としてはかなり不安だ、とアローもジェレミアも肌でひしひしと感じた。無言の時間が過ぎていく。と、その時。
「んん…」
「テンゼロ!」
「兄さん!」
「んぁ…俺…」
テンゼロが目を覚まして頭を振りながらよろよろと起き上がった。無言のままで張り詰めていた空気が霧散してアローはひとまず胸を撫で下ろした。そうしてやっと事の顛末を聞くことができる。
「テンゼロ、起きたばかりで悪いけどちゃんと休む前に事の顛末を聞かせてほしい」
「ああ…話はシャットが話してくれたんだな」
「うん」
シャットは気まずそうだ。勝手に二人のことを話したことに罪悪感があるらしい。テンゼロは気にしていないと、伝えた。シャットの顔が明るくなる。
「えっと、そうだな顛末としては…俺はシャットと暮らすことにするよ」
「え…テンゼロ?」
今度はミストの表情が陰った。信じられないという風な顔だ。しかしそれはアローもジェレミアも同じだった。納得がいかないらしくジェレミアが問い詰めようとしたがアローが制した。ありがとう、と言ってテンゼロは続けた。
「それから少年とも一緒に暮らす」
「あ?それってどういう…」
「三人で暮らすの?それで三人とも平気なのかな?」
アローが先読みして問うた。
「それは君の独断で、誰の許可も得ていないよね?」
「ああアローの言う通りだ。だから今話した」
テンゼロは至って真剣にミストを見つめた。返答を待っている、ミストは感じて思ったことを思ったままに話した。
「俺は、テンゼロが言うならそれでいいと思う…。俺はテンゼロと一緒にいることができるなら、初めから気にしてないし」
「ミスト…お前心広いな」
「ジェレミアくん今は真剣な話し中だよ」
「悪い…」
「ありがとう、少年」
テンゼロははにかんだ。その笑顔はいつもと変わらなくてミストは安心した。これがもし歪んでいたら何をどうしてでもテンゼロとシャットを引きはがしただろう。そうでないなら自分がテンゼロを否定することはない。
「えっとそれならミストはいいとして…」
そこまで言ってアローは言葉を紡げなかった。アローもジェレミアもミストも、恐る恐る問題の人物に視線を送った。その問題の人物は…。
「兄さんと一緒に暮らせる、ずっと一緒に…」
「あ…これミストのこと見てないな」
「うん、視界にすら入れてない。ミストは存在そのものが抹消されてる、彼の中で」
「兄さん、大好き…」
「え、あっうん俺もだけどなんか近いな。俺今臭うからやめてシャット…」
「兄さん…」
「あ、待てシャット!」
「おい!テンゼロに近づきすぎなんだよ!離れろ!」
「何お前。兄さんと俺の大切な時間を邪魔するな」
ミストが摑みかかるとシャットが低い声で唸る。二人の間に挟まれテンゼロはどう止めたものか考えあぐねていて引きつった笑顔を浮かべている。それを遠巻きに見てアローはため息をはいた。
「あれ絶対よくない」
「ん?別にいいんじゃないか?もともとテンゼロが行き来するのも苦肉の策だったわけだし、ミストとシャット二人にそれぞれ違う問題があるなら同時に見られる方がテンゼロ的には安心だろ」
「そうだけど…そうだね。その方がいいのか。テンゼロが見ているならシャットがナイフ持ち出したとしても止められるだろうし…」
アローはかなり心配ではあったがそれ以外でミストとシャットは落ち着かなさそうだし、だったらこの際一緒に面倒見てしまおうと言うテンゼロの判断はあながち間違いではないのかもしれないと思った。自分も初めは一緒に住めばいいんだと言ったし。
「あの、二人ともマジで離れて。今ほんと臭うから…あ、アロー、できたらシャワー貸してくれない?マジできつい…」
「「あ?」」
「うわっ二人で睨まないでよ、テンゼロが話しかけてきたんじゃん。貸すけどさ〜〜」
前途多難だな〜とアローは思いながらもシャットとミストの表情が晴れやかであったことを見逃さなかった。それなら、いいのか。アローは何も言わなかった。
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